――アルフの遺跡――
「ホウ……オウ……」
文字が書いてある壁にす……と指を滑らせながら、一人の少年は呟く。
「……それに……この時空の歪み……。やはりこの場所は、“伝説のポケモン”に関係があるのか」
少年……スヴィアは、後ろにいた二人を見た。
「じゃあ、早速リーダーに報告しなくちゃね!」
「せやけどここでどないすんねんやろ」
金髪の少女……キルが元気よくそう言い、変わった方言の少年……ツバサは首を傾げる。
「さあな……だが、オレたちの使命は、このことをリーダー……天羽 龍輝様にお伝えする事だ。
……行くぞ」
スヴィアの言葉に従い去っていくキルとツバサ。
目指す先は、“BATTLE GENERATION'S”の基地だった……。
+++
その頃のユウたちは。
「ここがアルフの遺跡かー!」
彼らもまた、アルフの遺跡を訪れていた。
ポケモン博士を目指すユウがどうしても、と言ったからだ。
「君たち、観光客? 良かったら案内してあげるよ」
「わあっ!?」
突然、背後から声を掛けられ驚くユウたち。
そこに立っていたのは、中性的な顔立ちの少年だった。
「あ、あなたは?」
「ツクシだよ。ここで研究員をしているんだ」
ラツキが問うと、少年……ツクシはニコッと笑って答えた。
「そうなんですか。じゃあ、お願いします」
「うん、任せて!」
そういうわけで、ユウたちはツクシに案内をしてもらう事になった。
そんな彼らの様子を、白い髪の青年がじっと見ていた……。
+++
一行は自己紹介を終え、雑談をしながら遺跡内を歩く。
ツクシの解説を、ユウは始終興味深そうに聞いていた。
「で、ここがパズルの間……って、ええっ!?」
しばらく歩いた後にツクシが案内してくれた『パズルの間』は、床に穴が開いていた。彼は慌てて室内に入り、慎重に周囲を見回す。
「床が抜けている……。おかしいな……前に調査しに来た時はこんな事になってなかったのに……。
様子もいつもと違うし……一体何が……?」
ぶつぶつ呟きながらもツクシは奥の壁へと向かい、その後をユウたちは慌てて追う。壁には、不思議な文字が書かれていた。
「……なんて書いてあるんですか?」
「えっと、ちょっと待ってね……」
ユウの疑問に、ツクシは持っていたノートをぱらぱらと捲る。
どうやら文字を解読するのに必要なものらしい。
「“ホウオウ”。……そう書かれているね」
「ホウオウ……って、確か伝説のポケモン……ですよね?」
ツクシが解読したその言葉に、ユウが反応する。
さすが未来のポケモン博士、とか思いながら、ミアは首を傾げた。
「へえ……。何でこんなところにそんなポケモンの名があるのかしら?」
「それはわからないけど……」
幼なじみに倣って、ユウも首を傾げる。
だがそんな中、ラツキは一人苦しそうにしていた……。
――声が……する……。誰……? オレを呼ぶのは……だれ……?
「伝説のポケモンなら他にもいろいろいるのにね。
『ミュウ』とか『ルギア』とか『セレビィ』とか……」
「なら、『アルセウス』というのは知っているかい?」
ユウが自分の知っている限りの伝説のポケモンの名をあげた、その時。
彼らの背後から声が聞こえた。
「誰、ですか」
警戒心を隠さず、ツクシが問う。
そこにはいつの間にか、白く長い髪の青年が立っていた。
「さあ……誰だろうね」
青年が不適に笑った、その瞬間。
――ドサ……ッ
何かが落ちるような物音が聞こえた。
ユウたちが後ろを振り返ると、そこにはラツキが倒れていた。
「――!? ラ、ラツキ!?」
ユウは駆け寄って、ラツキの体を起こした。
「ラツキ、ラツキっ! どうしたの!?」
だが、ラツキは気を失っているらしく、返事が無い。ミアも心配そうにラツキの名を呼んでいる。
ツクシは慌てて青年を振り返るが、彼の姿はなかった。
「彼は……一体……?」
+++
「大丈夫かな、ラツキ……」
「どうかな……大丈夫だといいけど……」
ミアはユウに背負われているラツキを見る。
ユウたちは、突然倒れたラツキを休憩所へ運ぶために歩いていた。
「……?」
不意に、何者かの視線を感じるユウ。
辺りを見回せば、先ほど見た不思議な文字のようなポケモンが、彼らを見ていた。
「なに、あれ……?」
「アンノーンだね。ここに住むポケモンで、普段は遺跡の中から出て来ないんだけど……」
驚くユウに、ツクシが説明をする。
「……何で出て来たのかしら?」
「ラツキくんのことが心配なんじゃないかな?」
ミアの疑問にも彼がそう答え、二人は怪訝そうに首を傾げた。
「何で……?」
しかしそれには答えず、若き研究員は彼らを休憩所へ案内したのだった。
+++
――声がする……呼ぶ声がする……。君は、だれ?
「……ん……おれ……?」
休憩所のベットの上で、ラツキは目を覚ました。
「あ! ラツキ、気がついた?」
「よ、よかったー! 大丈夫? 痛いとことかない?」
「ユウ……ミアさん……」
ラツキはボーっとした顔で、安心したような表情のユウとミアを見る。
「覚えてる? ラツキ、パズルの間で急に倒れたんだよ」
「あ……」
ユウにそう教えてもらい、ラツキは思い出す。
――そうだ、あの時……オレを呼ぶ声がして……。『誰か』を見て……それで……?――
けれど肝心な部分が思い出せなくて、ぎゅっと手を握り締めるラツキ。
『誰』を見たのか、“誰”に呼ばれたのか。何ひとつ、思い出せなくて……。
「ツクシさんは先にヒワダタウンに行くって言って行っちゃったんだ。ラツキのこと、心配してくれたけど……他の仕事があるからって」
そう説明をしてくれるユウの声さえ、今のラツキには遠く響く。
――よく知っているはずの、誰だか分からない、懐かしい“声”。
君は、だれなの……?――
「じゃあ、ラツキも気付いた事だし、僕たちもヒワダへ行こうか」
「そうね」
そんな会話をして歩き出すユウとミアについて行きながら、ラツキは思考の海に溺れていく。
――オレは……一体誰なんだろう? あの声は、あの人は、誰なの……!?――
ラツキの疑問に答えてくれる者はいない。
ただ、去っていく彼らを、あの白髪の青年だけが見ていた。
「存在に悩む、か……。君よ、何を選択する?」
ニヤリと笑って、青年は歪んだ空間に消えていった……。
第七話 終。
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