第6話 ハヤト


 次の日の朝。
 キキョウシティのポケモンセンターの一室に、ミアの元気な声が響く。

「おはよう! ということで今日はジムに行くわよ!」

 そう、ミアはポケモンマスターになるために旅をしているのだ。
 必然的にポケモンジムにも挑戦することになる。
 だが、ユウたちの反応は。

「ふーん……いってらっしゃい」

「頑張ってね、ミアさん!」

 欠伸をかみ殺しながら何ともやる気のないユウと、笑顔で見送る気満々のラツキという、ミアからしてみると少々冷たい反応だった。

「あんたたちも! 来るの!!」

 案の定、怒ったミアによって強制的に連行されるハメになったのだが。

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「ここねっ! キキョウジムは!!」


 眠そうなユウと苦笑いのラツキを連れて、やる気満々のミアはキキョウジムの前にいた。

「さあ! レッツゴーよ!!」

「あっ! ミアちゃん!」

 元気よくそう言うと、ミアはユウたちを置いてさっさとジムの方へ走っていく。

「ミアさん勝てるの?」

「どうだろうね……」

 心配そうなラツキに、ユウはわからない、と首を振った。

「ユウもバトルしたらいいのに」

「冗談。あんまりしたくないんだよ」

 その流れで何気なく言ったラツキの言葉に、苦笑いをするユウ。
 その時、そんな二人を見かねたミアが彼らを呼んだ。

「二人ともー! 早くー!!」

「ほら、ミアちゃんが呼んでる。早く行こう!」

「う、うん」

 にっこり笑うユウは、どこかその話題を避けたい、という雰囲気で。
 思わず頷いたラツキはただ、ミアの元へ足を運ぶしかなかった。

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「たのもー!!」

 ミアはジムの扉を勢い良く開け、元気に声を放った。
 しかし、ジムの中は真っ暗で人の気配がしない。

「留守、なのかな?」

 後から入ってきたユウが、そう言った途端。

「君たち、何してるんだ?」

「うわあっ!?」

 突然、彼らの後ろから声が聞こえた。
 驚いて振り向くと、長い前髪が特徴的な黒髪の青年が立っている。

「え……あ、貴方は……?」

「ハヤト。このジムの、ジムリーダーだよ」

 ユウが恐る恐る尋ねると、青年はそう名乗った。
 途端、ミアの表情がパッと明るくなる。

「じゃあ、ちょうど良かったわ! 私、ジム戦しに来たんです!!」

「ジム戦、かあ……」

 少女の言葉に、ハヤトは少し困った顔になる。

「え!? 何!? 何か問題でも……っ!?」

 まるでこの世の終わり、という風な表情で慌てるミア。
 それを見て、ハヤトは少し焦ったように首を振った。

「ああいや! ……うーん、それどころじゃないんだけど……まあいいや。
 いいよ、ジム戦しよう。君の名は?」

「え、あ! 海江イリエ 未亜ミアです! よろしくお願いします!」

 結構アバウトな性格しているのね、と内心で思いながら、ミアはそれでも嬉しそうに自己紹介をする。

「そう、ミアちゃんだね。じゃ、使用ポケモンは一体、一本勝負で良いね?」

「はい!」

「じゃあ行くよ!! ピジョン!!」

 時間がないのか簡単かつわかりやすいルールを提示したハヤトは、ミアが頷いたのを確認するとピジョンを繰り出した。

「リヒト!! 行っておいで!!」

 ミアが投げたモンスターボールの中からは、相棒であるピカチュウが現れた。

「ピジョン!! “かぜおこし”!!」

「わわっ! 避けて、リヒト!!」

 ハヤトのピジョンが風を巻き起こして攻撃する。
 かろうじて避けたピカチュウに、ミアはホッと息を吐いた。

「やるね! じゃあもう一度! “かぜおこし”!!」

「リヒト!!」

 二度目の“かぜおこし”は避けきれなかったようで、ピカチュウはダメージを受けてしまう。

「さすがジムリーダー……やっぱり強いね。でも……楽しいね、リヒト!!
 いけー! “でんきショック”!!」

「っ! ピジョン!!」

 ピカチュウの電気技が、ピジョンに当たる。
 タイプ相性が抜群の技を受け、ピジョンは地に落ちた。

「ピジョンは戦闘不能……か。負けたよ、ミアちゃん」

「えっ……やったあああ!!」

 ハヤトの声が響き、ミアは歓声を上げる。

「ミアさんすごーい!」

「ミアちゃん、相性で見事に勝ったね」

 思わず拍手をするラツキとユウ。
 二人とも笑顔だ。

「えへへ、まあね!」

 そんな二人を見て、ミアも照れくさそうに笑う。
 そのとき、ハヤトがバッチを取り出してミアに手渡した。

「はい、これがウィングバッチ。君の勝利の証だよ」

「あ、ありがとうございます!!」

 ハヤトとミアはそう笑って、握手をした。

「いいバトルだったよ。これからも頑張れ!」

「はい! あ、忙しい中、すみませんでした……」

 ハヤトの激励に、ミアが申し訳なさそうに謝る。
 けれど彼は首を振って、大丈夫だと笑った。

「実は、最近ある組織が動き始めたんだ。
 ……君たちも接触したと思うけど」

「ある組織……? それってもしかして」

 その言葉に、ユウが驚いたように目を見開く。

「ああ。“BATTLE GENERATION'S”だ」

「やっぱり……!」

 肯定したハヤトに、ユウたちの表情が強張った。
 そんな三人を見て、ハヤトは真面目な顔になる。

「やはり、接触していたんだね」

「はい……。でも、どうしてハヤトさんが……?」

 ミアの疑問に、色々とね、と答えたハヤトは、彼女の後ろで不安げな瞳を揺らしているラツキに視線を向ける。

 ――あの子が“例の少年”、か……――

 そしてそのまま、視線に気づき不思議そうな顔をしたラツキの名を口にした。

「ラツキ君」

「は、はい」

 急に名を呼ばれたことで、ラツキは表情を固くする。

「もし……旅先で、“守護者ガーディアン”と名乗る者たちに出会ったら、彼らは味方だ。頼りにすればいい。
 ……彼らは、君の過去について知っているだろう」

「なんでハヤトさんがそんなこと……」

 ラツキが記憶喪失なのは、当人たちだけしか知らないはずだ、とユウはハヤトに尋ねる。

「ま、オレはジムリーダーだからね」

「……そうですか」

 だが、そうにっこりと笑う彼に、ユウたちは脱力して、何を聞いても無駄か、と呆れたように頷いた。

「でも、えっと……ありがとうございました」

 苦笑いをしながらも、ラツキはそんなハヤトに礼を言う。
 そんな彼に満足したのか、ハヤトはジムを出る三人を見送った。

「行ってらっしゃい。頑張れよ!」

「はい!!」

 歩き出した三人は、次の町を目指す。
 それを確認したハヤトはそっと、ポケギアを取り出したのだった。



 第六話 終。