次の日の朝。
キキョウシティのポケモンセンターの一室に、ミアの元気な声が響く。
「おはよう! ということで今日はジムに行くわよ!」
そう、ミアはポケモンマスターになるために旅をしているのだ。
必然的にポケモンジムにも挑戦することになる。
だが、ユウたちの反応は。
「ふーん……いってらっしゃい」
「頑張ってね、ミアさん!」
欠伸をかみ殺しながら何ともやる気のないユウと、笑顔で見送る気満々のラツキという、ミアからしてみると少々冷たい反応だった。
「あんたたちも! 来るの!!」
案の定、怒ったミアによって強制的に連行されるハメになったのだが。
+++
「ここねっ! キキョウジムは!!」
眠そうなユウと苦笑いのラツキを連れて、やる気満々のミアはキキョウジムの前にいた。
「さあ! レッツゴーよ!!」
「あっ! ミアちゃん!」
元気よくそう言うと、ミアはユウたちを置いてさっさとジムの方へ走っていく。
「ミアさん勝てるの?」
「どうだろうね……」
心配そうなラツキに、ユウはわからない、と首を振った。
「ユウもバトルしたらいいのに」
「冗談。あんまりしたくないんだよ」
その流れで何気なく言ったラツキの言葉に、苦笑いをするユウ。
その時、そんな二人を見かねたミアが彼らを呼んだ。
「二人ともー! 早くー!!」
「ほら、ミアちゃんが呼んでる。早く行こう!」
「う、うん」
にっこり笑うユウは、どこかその話題を避けたい、という雰囲気で。
思わず頷いたラツキはただ、ミアの元へ足を運ぶしかなかった。
+++
「たのもー!!」
ミアはジムの扉を勢い良く開け、元気に声を放った。
しかし、ジムの中は真っ暗で人の気配がしない。
「留守、なのかな?」
後から入ってきたユウが、そう言った途端。
「君たち、何してるんだ?」
「うわあっ!?」
突然、彼らの後ろから声が聞こえた。
驚いて振り向くと、長い前髪が特徴的な黒髪の青年が立っている。
「え……あ、貴方は……?」
「ハヤト。このジムの、ジムリーダーだよ」
ユウが恐る恐る尋ねると、青年はそう名乗った。
途端、ミアの表情がパッと明るくなる。
「じゃあ、ちょうど良かったわ! 私、ジム戦しに来たんです!!」
「ジム戦、かあ……」
少女の言葉に、ハヤトは少し困った顔になる。
「え!? 何!? 何か問題でも……っ!?」
まるでこの世の終わり、という風な表情で慌てるミア。
それを見て、ハヤトは少し焦ったように首を振った。
「ああいや! ……うーん、それどころじゃないんだけど……まあいいや。
いいよ、ジム戦しよう。君の名は?」
「え、あ! 海江 未亜です! よろしくお願いします!」
結構アバウトな性格しているのね、と内心で思いながら、ミアはそれでも嬉しそうに自己紹介をする。
「そう、ミアちゃんだね。じゃ、使用ポケモンは一体、一本勝負で良いね?」
「はい!」
「じゃあ行くよ!! ピジョン!!」
時間がないのか簡単かつわかりやすいルールを提示したハヤトは、ミアが頷いたのを確認するとピジョンを繰り出した。
「リヒト!! 行っておいで!!」
ミアが投げたモンスターボールの中からは、相棒であるピカチュウが現れた。
「ピジョン!! “かぜおこし”!!」
「わわっ! 避けて、リヒト!!」
ハヤトのピジョンが風を巻き起こして攻撃する。
かろうじて避けたピカチュウに、ミアはホッと息を吐いた。
「やるね! じゃあもう一度! “かぜおこし”!!」
「リヒト!!」
二度目の“かぜおこし”は避けきれなかったようで、ピカチュウはダメージを受けてしまう。
「さすがジムリーダー……やっぱり強いね。でも……楽しいね、リヒト!!
いけー! “でんきショック”!!」
「っ! ピジョン!!」
ピカチュウの電気技が、ピジョンに当たる。
タイプ相性が抜群の技を受け、ピジョンは地に落ちた。
「ピジョンは戦闘不能……か。負けたよ、ミアちゃん」
「えっ……やったあああ!!」
ハヤトの声が響き、ミアは歓声を上げる。
「ミアさんすごーい!」
「ミアちゃん、相性で見事に勝ったね」
思わず拍手をするラツキとユウ。
二人とも笑顔だ。
「えへへ、まあね!」
そんな二人を見て、ミアも照れくさそうに笑う。
そのとき、ハヤトがバッチを取り出してミアに手渡した。
「はい、これがウィングバッチ。君の勝利の証だよ」
「あ、ありがとうございます!!」
ハヤトとミアはそう笑って、握手をした。
「いいバトルだったよ。これからも頑張れ!」
「はい! あ、忙しい中、すみませんでした……」
ハヤトの激励に、ミアが申し訳なさそうに謝る。
けれど彼は首を振って、大丈夫だと笑った。
「実は、最近ある組織が動き始めたんだ。
……君たちも接触したと思うけど」
「ある組織……? それってもしかして」
その言葉に、ユウが驚いたように目を見開く。
「ああ。“BATTLE GENERATION'S”だ」
「やっぱり……!」
肯定したハヤトに、ユウたちの表情が強張った。
そんな三人を見て、ハヤトは真面目な顔になる。
「やはり、接触していたんだね」
「はい……。でも、どうしてハヤトさんが……?」
ミアの疑問に、色々とね、と答えたハヤトは、彼女の後ろで不安げな瞳を揺らしているラツキに視線を向ける。
――あの子が“例の少年”、か……――
そしてそのまま、視線に気づき不思議そうな顔をしたラツキの名を口にした。
「ラツキ君」
「は、はい」
急に名を呼ばれたことで、ラツキは表情を固くする。
「もし……旅先で、“守護者”と名乗る者たちに出会ったら、彼らは味方だ。頼りにすればいい。
……彼らは、君の過去について知っているだろう」
「なんでハヤトさんがそんなこと……」
ラツキが記憶喪失なのは、当人たちだけしか知らないはずだ、とユウはハヤトに尋ねる。
「ま、オレはジムリーダーだからね」
「……そうですか」
だが、そうにっこりと笑う彼に、ユウたちは脱力して、何を聞いても無駄か、と呆れたように頷いた。
「でも、えっと……ありがとうございました」
苦笑いをしながらも、ラツキはそんなハヤトに礼を言う。
そんな彼に満足したのか、ハヤトはジムを出る三人を見送った。
「行ってらっしゃい。頑張れよ!」
「はい!!」
歩き出した三人は、次の町を目指す。
それを確認したハヤトはそっと、ポケギアを取り出したのだった。
第六話 終。
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から