比翼連理のオラトリオ あらすじ


ジョウトから南に離れた場所に浮かぶ、小さな島……リラート地方。
二年より前の記憶がない少年、ローザン・メイラは、最東端にあるレントタウンの孤児院で暮らしていた。
ある日、おつかいで隣町のシュティルシティにあるポケモン研究所を訪ねたその帰りに、謎の少女メロディアに狙われる。
間一髪で助けてくれたのは、青い髪の少年……シュロウだった。
自身のことを知っているらしいシュロウに連れられて、ローザンはわけの分からないまま逃避行に巻き込まれる。

活気あふれる町、ルスティシティへと辿り着いたふたりは、そこで活発な少女・リンと出逢う。
ひと目でローザンのことが気に入ったと言い放った彼女は、ふたりの旅に無理やり付いていくことに。
更に、次の町との間に位置するアルモニカ公園で、ノエルと名乗るポケモン図鑑機能を搭載した少女人形とも出逢った。
ノエルはシュロウとローザンを助けるために、「イザロ」という男性から遣わされた存在だという。

賑やかになった逃避行。
しかし、墓所の町・ルグレタウンにて彼らは運命と対峙する。
それは、シュロウの父親であり、リラートを治める名家……「ヘルツハフト家」の現当主、プロミネンス・ヘルツハフトだった。

彼から齎された真実。
メロディアを始めとした追手は全てヘルツハフトの人間で、ローザンもまたヘルツハフト家の一員であり、シュロウとは「魂を分けた双子」と呼ばれる間柄だと言うこと。
シュロウは生き別れになったローザンを探すために、一族を裏切ったということ。
一族に戻ればこれ以上罪は問わない、と手を差し伸べるプロミネンスに、シュロウは激高した。

「お前がロザにしたこと、オレは忘れていない!」

その強い感情は、ローザンにも影響を与える。
ふたりは息の合ったタッグバトルで、プロミネンスを撃破。
彼が去ったあとに残ったのは、真実を求めるローザンと、言い淀むシュロウ、そしてその切迫した空気に戸惑うリンとノエルだった。


その後一行は、港町アープルシティでリラートの調査に来た“守護者ガーディアン”……シルバーとゴールド、そしてユウ、ラツキと出逢う。
そこで彼らからもたらされたのは、ローザンとシュロウはヘルツハフト家が持つ固有能力「守る力」の保有者である、という情報だった。
それは、状況に応じてポケモンの技が使えるという、およそ人間離れした能力。
戸惑うローザンに対し、シュロウは彼らに「ロザにこの力は使わせない」と宣言するのだった。

更に、港から別の地方へ逃げようと考えていたシュロウへ、シルバーは予知能力で視た未来を告げる。
今別の地方へ逃げるより、向き合うべきだ。 ふたりの未来と生命のためにも、と。
その言葉を受け、シュロウとローザンは一族と対峙することを決意する。


その後、ローザンは記憶が戻り始める。
シュロウのこと、一族のこと、自分のこと。
……両親が、プロミネンスのやり方に異を唱え……そして彼に殺されたこと。

惨劇を思い出し錯乱するローザンに、シュロウは苦悩する。

「お前の両親を殺したのは、オレの父親だ。 ……お前が嫌なら、お前の傍を離れる」

しかしその言葉を、ローザンは拒否する。
「シュロウがいなくなったら、自分は本当にひとりぼっちになってしまう」、と。

また、ローザンは自分とシュロウが魂を分けた存在である、ということも思い出す。
それは、お互いの感情や心を共有している特異な存在。 身内からは「魂の双子」と呼ばれる存在だった。
本来なら一人しか受け継がれない「守る力」を、ローザンとシュロウの二人が受け継いでいたのも、二人が「ふたりでひとり」の特殊な生命だからであった。


一族の屋敷があるドルマン山の麓に位置する町、古都ラトリシティ。
そこで出逢ったのは、シュロウとローザンの味方にしてノエルの製作者、イザロ・ヘルツハフトだった。
イザロはヘルツハフト家、そしてプロミネンスの企みを一行に明かす。

プロミネンスは伝説のポケモンを支配下に置き、亡き古の王国を再建させ、世界征服を目論んでいる、と。

途方もないその計画に、言葉を失う一行。
しかしシルバーから、新たな情報が提供される。

ヘルツハフト家はかつて、ヨハネ家と共に古の王族……ルフィス家の護衛を務めていた。
ルフィス家は始祖“ラピスラズリ・フォン・ルフィス”のもと、伝説のポケモンを守護しており、それが後の“守護者”と呼ばれる由来となったという。
ルフィス家の固有能力「視る力」、「癒やす力」、ヨハネ家の「聴く力」、そしてヘルツハフト家の「守る力」は全て、始祖ラピスラズリとその従者たちが幻のポケモン・ミュウから与えられた力だという。

プロミネンスの計画には、シュロウとローザンが必要不可欠だとイザロは語る。
ふたりには屋敷に戻らず、このまま逃げてほしいと願う彼に、ふたりは自らの思いを告げる。

「もう、逃げるのはやめる。 向き合って、計画を阻止する。 ……家族として」


辿り着いた屋敷で、一行はヘルツハフト家と対峙する。
ローザンとシュロウはプロミネンスとバトルを繰り広げるが、その最中プロミネンスの真の目的を聞いた。

「全ての人間が平等に、誰からも蔑まれることなく生きていける世界を作りたい」

その結果、目的と言動が矛盾していることは、プロミネンス自身もよく分かっていた。
全てが平等になった世界で、ヘルツハフトもヨハネもルフィスも、一般の人間として生きていく。

そして。 そんな世界になったならば。

彼が遠い昔に失くした……「片親が不明だから」という理由で一族から追放された彼の従兄、“プロキオン・ヘルツハフト”が帰ってくることが出来るのではないのか、と。
母親の庇護を亡くしたプロキオン……ロキが追放される日、幼いプロミネンスが彼と交わした約束。

「誰もが平等に生きられる世界を作る、だからその日が来たら、帰ってきてねロキ兄様」

純粋だった願いは、いつかプロミネンスを大きく歪ませていった。

しかし、ローザンはその歪みを砕くと宣言。

「平等に、というなら、何でオレの両親を殺したんだ。 お前はオレを、プロキオンという人と同じ目に合わせたかったのか。 それがお前の宣う平等か!」

ローザンとシュロウは、苦戦の果てにプロミネンスをその目的ごと撃破。
悲嘆に暮れるプロミネンスに、シュロウが呟く。

「人は平等じゃない。 だけど生きていけるし、世界は絶望ばかりじゃない。 争いもあれば平和もある。 それが人間だ」

ふたりは自分たちの存在のため、プロキオンの存在のために歪んだヘルツハフト家を立て直すために屋敷に戻ることを決める。
目的を失ったプロミネンスを放っておけなかったというのも理由のひとつだった。

ローザンとシュロウ、そしてノエルとイザロはリンとシルバーたちに感謝と別れを告げる。
リンはリラート以外の地方を巡って、また帰ってくると言って、ローザンたちと再会の約束を交わした。

ふたりはヘルツハフトの者たち……家族と対話を重ね、和解していく。
ヘルツハフトはふたりを再度受け入れ、事態は無事収束したかに思えた。


……しかしそれは、新たな苦難と試練の幕開けに過ぎなかったのだ。