「やっと着いたわっ!!
第二のジムがある町……ヒワダタウン!」
ミアは大きく伸びをしながら、楽しげに笑う。
入り口付近に井戸がある、穏やかな空気が流れる静かな町……ヒワダタウン。
アルフの遺跡からの長い道を越え、ユウたちはその町に辿り着いたのだった。
「ヒワダといったらガンテツさんのボールも有名だよね」
「それも気になるけど……まずはジムよジム!!」
ガイドマップを見ながらこの町の名物をあげるユウだが、ミアにとってはボールよりまずはジム、らしい。
「ねっ! ラツキ!」
突然くるりとラツキに向き直り、話を振るミア。
しかし、当のラツキは二人の会話を聞いていなかったようだ。
「……え? あ……なに?」
「……どうしたの? 大丈夫?」
きょとんと首を傾げるラツキに、ユウが心配そうにそう声をかけ、その時。
「ユウくん、ミアちゃん、ラツキくん!」
「あ! ツクシさん!!」
彼らの前方から、ツクシが駆けてきた。
「よかった。ラツキくん気がついたんだね」
「あ……はい……」
ツクシの言葉にも曖昧に返すラツキは、まだ少しぼんやりとしている。
そんな彼を見たツクシは、少し何かを考えてから、ある提案をした。
「……あ! そうだ。僕、今から“ヤドンの井戸”へ見回りに行くんだけど……良かったら一緒に行かない?
ラツキくんの気分転換になるかもだし」
「え、っと……?」
「ヤドンの井戸?」
その提案にラツキは戸惑い、ミアは不思議そうに聞き返す。
入り口付近にあった井戸、ということはわかるが、ヤドンの名を冠していることが不思議らしい。
だがそんな二人に対して、ユウはワクワクとした様子でツクシの提案に頷いた。
「ちょっと行ってみたいかも……」
「それじゃあ、行こっか」
にこっと笑って、案内するよ、と歩き出すツクシ。
ユウたちもそれを追って、井戸へと向かった。
+++
――井戸の中。
野生のヤドンたちが気ままに暮らす薄暗いその場所を、ユウたちは歩く。
「ここは二年前、ロケット団の残党が潜んでいたんだ。それを三人の少年少女が倒してくれてね。
また潜んでいないかって、たまにこうして見回りに来てるんだ」
「その『三人の少年少女』って……もしかして、ゴールドさんとシルバーさんのこと、ですか!?」
ツクシの説明に、ミアがキラキラした瞳で尋ねる。
「あれ、知り合いなんだ?」
「知り合いって言うより成り行きで……まあ、色んなことを教えてくれました」
驚いたようなツクシに、今度はユウが答えた。
「そうか……あの子たちは本当に優しいね。
シルバーちゃんはひねくれてたけど」
くすっ、と笑いながらツクシは懐かしさを乗せた声音で語る。
「……さて、異常もないみたいだし、帰ろうか!」
「はい。……ラツキ、行くよ?」
来た道を引き返すツクシに頷いて、ユウは傍らでヤドンを撫でていたラツキを促した。
それに短く返事をしてから、ラツキはヤドンたちがのんびりとあくびをする、穏やかな井戸の中を見回す。
(平和で……幸せそう。のんびりしてて、なんだか落ち着くな)
ゆるりとした光景に、肩の力が抜けたように微笑むラツキ。
そうして視線を眼前を歩くユウとミアに向けた。
「何もなかったねー……」
「平和が一番だよ、ミアちゃん」
つまらなさそうにふてくされるミアに、ユウが苦笑いを零す。
そんな二人の会話を聞きながら、ツクシは本当に平和ならばいいのに、とそっと目を閉じた。
+++
――ワカバタウン。
「……それにしても、驚いたな。ラツキが、そんな……」
優しいそよ風が吹く中、そう呟いたのはゴールド。
「ねえねえ、それってホントなの?」
その呟きに反応して、隣にいた少女……エリア・ミラカナが茶色いツインテールを揺らして、シルバーに問う。
「……ああ。だが、それを本人に知らせるのはまだ早い……。
何かあったら“あいつ”やジムリーダーが何とかするだろ」
「“あいつ”……ああ、ワタルさんか」
シルバーの遠回しな表現に、同じく隣にいた幼なじみの少年……クリスタル・エスリートはしばらく考えてから思い出したように手を叩いた。
エリアとクリスタルは二年前ゴールドたちとこのジョウトを旅し、そしてロケット団残党による一連の事件を共に解決した仲間だ。
シルバーに呼ばれたそんな二人は、彼女から今回の件について話を聞いていたのだった。
「ってか何やってんだよ、今。
どこにいるんだよ、お前のアニキさあ?」
「……知るか」
ゴールドの疑問に、シルバーは冷めた声で言い捨てる。
そう、ジョウト・カントーのポケモンリーグチャンピオン、ワタル・ルフィスは、シルバーの実兄なのだ。
「ポケモンリーグにあんまり戻ってないって聞いたよ?」
「それでいいのかチャンピオン……」
意外と情報通なエリアの情報に、ゴールドは遠い目をする。
「まあ……ラツキに何かあったら出てくるだろ、あの馬鹿兄も一応“守護者”なんだからな」
「いい加減仲直りしなよ……」
吐き捨てるように言うシルバーに、クリスタルは苦笑する。
ちょっとしたすれ違いで兄妹仲に亀裂が生じたシルバーとワタルだが、どちらかと言うとシルバーの方が一方的に兄を避けている、というのは目に見えて明らかで。
ワタルはシルバーに会う度何かと会話を持ちかけようとするのだが、彼女はそれをさらりと躱してしまい、現在に至るまで仲が直っていないようだ。
「……あの馬鹿兄のことはもういいだろ。今はあいつらのことで手一杯だ」
強制的に話題を変えようとするシルバーも、一応兄と和解しなければ、と考えてはいる。
だが長年の溝はそう簡単に埋められるはずもなく、結局仲違いをしたままなのだ。
(今更、兄妹ごっこなんて……――)
「うーん、けど今は見守るしかないって言われてもなぁ」
ゴールドのため息混じりの声に、シルバーは思考の渦から脱する。
「……戦いが激化するようなら、私たちもあいつらに合流する」
「激化しないのが一番、だけど……無理なんだろうね……」
彼女の言葉に、クリスタルもまたため息をつきながらそう言った。
“彼ら”を巡る戦いが激化しないわけなどありはしないのだと、身を持って知っているから。
「……“BATTLE GENERATION'S”……か……。
これ以上余計な真似をしなかったらいいんだがな……」
嘲笑にも近い笑みを浮かべる紅の少女は、全てを知る者として、今はまだ傍観者に徹する。
その先に待ち受ける未来をも見通しながら。
第八話 終。
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から