「出ておいで! フルール!!」
ユウが投げたボールから出てきたのは、キレイハナ。くるりとその場で一回転をして、彼女はマトたちに微笑んでみせた。
いつもとは違う、好戦的な目で、“ユウ”も笑う。
「さあ……かかってきなよ」
「っそんなひ弱な奴で、私に勝つ気!?」
その雰囲気に呑まれながらも、マトは負けじと言い返す。
「ああ。当たり前だろ?」
「ーーッ! 自信満々ってヤツ、大っ嫌いっ!!」
けれどニヤリと笑ったユウに、彼女は相当頭に来たようだった。
「行ってらっしゃい! リーちゃん!」
マトが投げたボールからは、マリルリが現れた。
「リーちゃん、“みずてっぽう”!!」
「フルール、“はなびらのまい”!!」
マトのマリルリが水を放ち、その水を踊るように避けるユウのキレイハナが花を散らしながら攻撃する。
「すごい……。もうバトル始めちゃってるよ……」
そのバトルを見ていたミアは呆然と呟いた。そんな姉にネアがボールを構える。
「……オレたちもやるぞ」
「……ネア……。……わかったわ」
複雑そうな顔で、ミアは頷く。
弟と戦うことに戸惑いがあるのだろう。
「フレイ!」
「お願い、リヒト……!」
ネアが出したのは、ユウたちを縛った糸を吐いたポケモン・バタフリー。
そしてミアは、相棒であるピカチュウを繰り出した。
「フレイ、“かぜおこし”!」
「リヒト、“でんこうせっか”!!」
そんなユウとミアを横目で見ながら、ラツキはそっとボールを握った。
自分がポケモントレーナーだった、という記憶はない。
だけどなぜか持っていたモンスターボールにはちゃんとポケモンが入っていて、そのニックネームも知っている。
心配そうに自分を見つめるそのポケモンに、ラツキはそっと微笑んだ。
「行って、ムルド!!」
「行きなさい……ソムニウム……!」
ラツキのボールからは、そのポケモン……エアームドが銀翼を翻しながら飛び出し、サキカはムウマを出した。
「……私たちがこのバトルに勝ったら……貴方は私たちの元へ来るのよ……」
「……君たちは、何者なんだ? どうしてオレを狙うんだ?」
冷めた声でそう言ったサキカを睨み、ラツキは問い掛ける。
「……私たちは……“BATTLE GENERATION'S”の一員なの……」
そんな彼に、サキカは何てことない、という風に冷静に答えた。
「“BATTLE GENERATION'S”……!」
「それって、シルバーさんが言ってた……。
じゃあ……シルバーさんの言ってた事は、本当なの……!?」
マトと戦っていたユウ、ネアと戦っていたミアが、その言葉に反応した。
それは、ラツキも同じだった。
「オレを狙ってくる可能性が高い……。シルバーさんはそう言ってたけど……。
でも、なんで……!?」
「ふふ……全て忘れている貴方にはわからないわね……。でも……教えてあげるほど……私たちは親切じゃないの。
全てはリーダー……『天波 龍輝』様の意思……とだけ言ってあげるわ……」
「!! 天波……龍輝……ッ!?」
動揺するラツキの問い掛けに答えたサキカが口にしたその名に、ユウが再び反応する。
「え、どうしたの、ユウ?」
「そいつは……シオンをさらった奴だ……ッ!!」
心配そうなミアに視線も向けず、ユウは瞳に暗い色を宿してそう言い捨てた。
+++
――二年前。
ユウは家の近くの森でたまたま出会った少女・シオンと仲良くなり、よく一緒に遊んでいた。
シオンはなぜかユウ以外の人には会いたがらず、ユウもまたそんな彼女の意思を汲んで彼女のことを誰にも言わなかった。
だが、そんな平穏な時間は、ある日一人の青年によって崩されてしまった。
「いや……っ離して!! 助けて、ユウお兄ちゃんっ!!」
「シオン……っ!! お前、お前は何者だッ!! シオンを離せッ!!」
青年に連れ去られるシオンを、傷付きながらも助けようとするユウ。
そんな彼を見やって、青年はニヤリと笑う。
「……オレは……『天波 龍輝』」
そう、確かに、青年はそう名乗ったのだった。
結局シオンは連れ去られ、ユウは自分の無力さを思い知らされた……――
+++
「そんな、ことが……」
「ごめんね、ミアちゃん。シオンのこと黙ってて……」
ミアは複雑な眼差しで、ユウを見やる。だが彼は悲しげに微笑んで俯いてしまった。
幼なじみであるミアにすら秘密にしていた、ということに罪悪感を覚えているのだろう。
「えっ!? い、良いって!!
そりゃあ、知らなかったのはショックだけど……今そうやって話してくれただけで十分よ」
その様子に驚いたミアは慌てて首を振り、そして優しく笑った。
「うん……ありがとう、ミアちゃん」
そんな彼女を見て、ユウもやっと普段の笑みを浮かべる。
胸のつかえが取れたような、安心したような笑顔を。
(二人は、仲が良くていいな……)
そのやり取りを黙って見ていたラツキは、そっと思う。
自分にも、そんな存在がいたのだろうか……。
何でも言い合える、大切な、親友、が……――
「ラツキ?」
黙ったままだったラツキの異変に最初に気付いたのは、ユウだった。
纏うオーラが普段のふわふわしたものではなくなったのだ。
戸惑うユウやミアを一瞥して、『ラツキ』はサキカたちに一歩近づく。
「ラツキ!!」
その行為をどう捉えたのか、ユウは焦ったような声を出す。
だが『ラツキ』はそれ以上は近づかず、そっと、声を発した。
『……キミたちは、捕まえたシオンをどうするつもりだ?』
「……っそれは、教えられないわ……」
それはいつもとは違う、言うなれば厳かな響きを持つ声。
サキカたちもその様子が尋常ではないと気付いたのか、キッと『ラツキ』を睨む。
『そう……なら、ここでキミたちを倒そう。“彼ら”の為に……』
そう言って手を振り上げた『ラツキ』に、マトが焦ったように声を発する。
「っ仕方ないわ! 今日の所は引き上げるよ、二人共っ!!」
「わかったわ……」
「……チッ……」
ネアとサキカはその言葉に頷き、去っていった。
「あっ……待ちなさいよ……!」
慌てたミアが彼女たちを追いかけようとしたその瞬間、ドサッ、と言う音が背後から聞こえ、ミアは立ち止まる。
「ラツキ!?」
ユウの声にラツキが倒れたのだと知ったミアは、慌てて駆け寄る。
「ラツキ、どうしちゃったのかな……」
「わからない……シオンのことも知ってるみたいだったし……」
先ほどのラツキの異変に、二人は首を傾げる。
「……ユウ。……これから、どうする?」
ただ夢を叶えるためだけだった旅は、いつの間にかそれぞれの大切な人が絡んでいて。ミアは思わず幼なじみに尋ねてしまった。
(答え、なんて、わかっているのに)
「あいつらのリーダーが……シオンを攫ったんだ……だから……!」
「ユウ……」
ぎゅっと手を握り締めたユウに、ああ、自分の予想は当たっていた、とミアは複雑な気持ちになる。
「だから、あいつらの居場所を探し出して、シオンを助けるっ!!」
そう言い切ったユウの瞳は、暗い色を宿していた……。
願わくば、キミと笑顔で。
第四話 終。
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