空から墜ちる、流れ星。
誰にも届くことのない悲鳴が、夜闇に響き渡った。
「お願い、だれか……助けて……っ!」
+++
――ジョウト地方、ヨシノシティ。
閑静なこの町から、新たなる冒険が始まろうとしていた……。
「ユウ! 準備できたー?」
「うん、すぐ行くよ」
外から聞こえた少女の声に、緑髪の少年……葵守 友結はそう答えた。
「……っと、そうだ」
ユウは玄関に置いてあった写真立てを見やる。そこには、朗らかに笑うひとりの少女とユウの姿が映っていた。
「……行って来るね、シオン」
ユウはドアを開け、何かを決心したように、外へと足を踏み出した。
――君と僕の夢を、叶えに……!――
+++
「お待たせ、ミアちゃん」
ユウは家の外で自身を待っていた幼なじみの少女にそう声をかける。
「もうっ! ユウ、遅ーい!」
少女……海江 未亜は、怒ったような表情で仁王立ちをしていた。ツインテールにしたオレンジ色の頭が、風に揺れている。
「ごめんごめん。そんなことより早く行こうよ」
「う、うん……。……って、そんなこと!?」
苦笑いしながら軽く流したユウに、ミアは突っ込む。
もうっ! と彼の頭を叩きながら歩き出した幼なじみの後を、ユウは慌てて追いかけた。
ふたりは今日から、お互いの夢を叶えるために旅に出る。
ユウはポケモン博士に、ミアはポケモンマスターになるために。
ユウにとってその夢は、『シオン』との約束でもあった。
だが、ワカバタウンの近くに住む子どもが旅に出る時は、ワカバタウンに居るウツギ博士に挨拶をしなければいけないという習慣がある。
実際にそんなことをしている者はほとんどいないのだが……。
「そういやこの前、旅に出てたウツギ博士のお子さんが帰ってきたって聞いたけど……」
ユウとミアは、そのワカバタウンを目指して歩いていた。
ポケモン博士を目指すユウが、どうしてもウツギ博士に会いたいと言ったからだ。
「へえ、そうなんだ。てかお子さんいたのね」
「結構有名だよ……」
バトル以外の噂話に関しては無関心なミアに、ユウはまた苦笑いをする。
「なんかね、その子……って僕らと同い年なんだけど、まあその子はね、確か博士の本当のお子さんじゃなくて。
でもポケモンバトルもなかなか強いって聞いたことあるよ」
ユウは広がる青空を見上げながら、ミアにそう話した。
「じゃあ養子ってこと? ていうかバトル強いなら勝負してもらえないかなー!」
「……ミアちゃん、ほんとバトル好きだね……」
途端にワクワクし出したミアに苦笑いを浮かべるユウ。
彼女がポケモンバトル好きだと言うことは、長い付き合いの中で十分すぎるほどわかっている。
バトル中のミアはとてもきらきら輝いていて、ユウはそんな彼女を見るのが好きだった。
(まるで赦された気分になる、なんて……)
そんな他愛もない話をしながら辿り着いたワカバタウン。
ユウは逸る気持ちを抑えながら、ウツギ研究所の呼び鈴を鳴らした。
『はい』
インターホン越しに聞こえたのは、低い声。
ユウは慌てて、ウツギ博士に会いに来た、と用件を告げる。 するとしばらくしてドアが開き、そこにはひとりの紅い髪の少女が立っていた。
「……ウツギ博士ならいない。一週間ほど前から仕事でどこかへ行ってる」
その声からして、先ほどインターホンに出たのはこの少女だと言う事が分かった。
彼女からもたらされた情報に、ユウはガッカリした顔でミアを見やる。
「そんなあ……。どうしよう、ミアちゃん……」
「って、私に言われてもね……」
ふたりは困ってしまい、お互い顔を見合せる。 しかしそんな彼らの耳に、はあ、とため息が聞こえた。 先ほどの少女だ。
「……私の知り合いに、博士の行方を知っている奴がいるけど?」
その言葉に、すかさずユウが反応する。
「ほ、本当ですか!? その人のところへ連れて行ってください!!」
+++
そう言うわけで、二人はその少女について行く事になった。
少女の名は、シルバー・ルフィス。
二年前、同じジョウトで暴れていたロケット団の残党達を倒した少年少女たちの内のひとりで、件の“ウツギ博士の養子”だと言う。
「ウツギ博士のお子さんなら、博士の行き先をご存知なのでは……」
「いや、興味ないし」
自身のツッコミをばっさりと切り捨てた彼女に苦笑いを浮かべるユウ。
そうしてお互いに自己紹介をしながら、辿り着いたのはワカバタウン郊外だった。
「いっけー、フレア!! “ほのおのうず”!!」
拓けた場所で、ひとりの少年がバクフーンを使って岩を壊していた。 ある種の特訓法なのだろう。
「ん?」
ふと、少年が町の方を見ると、紅い髪をした少女が、見知らぬ少年と少女を連れてこちらへ来ていた。
「相変わらず頑張ってるな、ゴールド」
少女……シルバーが少年に声をかける。
そしてその『ゴールド』、と呼ばれた少年は、にっと笑ってこう言った。
「まあな、シルバー!」
どうやら、シルバーの“知り合い”というのは、彼の事らしい。
「ちょっ、ちょっと待って! ゴールドって、二年前ロケット団を倒したって言うあの凄腕トレーナーの!?」
すると、不意にミアが瞳を輝かしながらそう叫んだ。
ゴールドは、返答に困りながら、そうだ、と頷く。
そう、彼、ゴールド・マサミカも二年前のR団事件を解決した少年少女の内のひとりなのだ。
「きゃー! 私、あなたに憧れてたんですー!!」
「うわわっ」
ポケモンマスターを目指すミアにとって、強いトレーナーは憧れの的になるのだろう。
彼の手を握りぶんぶん振り回す少女に、ゴールドは辟易する。
「え、えっと……それで、君たちは?」
手を離された彼が困ったように首を傾げ、ユウとミアは慌てて自己紹介をした。
+++
「ウツギ博士の行方?」
うわあ、と呟きながら、ゴールドはそう言った。
「はい……」
ユウは申し訳なさそうに頷く。
「わざわざ博士のトコなんか行かなくても、勝手に旅に出りゃいいのに……」
「まあ、それはそうなんですけどねー。ユウはね、博士に憧れてるんです。
ね、ユウ?」
ゴールドの言葉にユウが困っていると、にっこりと笑いながらミアがそう助け舟を出した。
「へえ。じゃ、将来はポケモン博士になるんだ?」
ゴールドがそう尋ねると、ユウははにかむように笑う。
「はい……。約束、なんです。僕と、シオンの」
「……シオン?」
しかしシルバーは、彼が呟いた名前に反応する。
どうやら知っている名前らしい、とは、傍にいたゴールドしか気が付かなかった。
「はい。……友達なんです」
だが、ユウはそんな彼女たちの反応に気づかず、笑ってそう答えた。
……その時だった。
――ガラ……ッ
「っユウ!!」
「え……っ!?」
ユウのすぐ後ろにあった崖が、突然崩れた。
ミアの悲鳴と共にユウが振り返り……そして。
――どさっ!!
「うわあ!?」
彼の上に、ひとりの少年が降って来た。
肩まである茶色の髪。 左側のサイドの髪には緑色のメッシュが入っている。
袖口の広い服は白を基調としていて、所々に黄色のラインが入っていた。
「わ、わあー!? ユウ、大丈夫!?」
「……誰だコイツ……?」
慌てて幼なじみに声をかけるミアの横で、ゴールドが首を傾げる。 すると、気を失っていたらしいその少年が目を覚ました。
「ん……ここ、は……?」
辺りを見回しきょとんとした表情を浮かべている少年に対し、起き上がったユウは少年を見てぽつりと呟いた。
「……シオンに、似てる……?」
突然現れた謎の少年。
それは、果てしなく続く物語の幕開け。
(そして、君と僕の、運命の始まり)
第一話 終。
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