――ヒワダジム。
「いっけーっ! リヒト!!」
「ストライクっ!!」
ミアはピカチュウを、ツクシはストライクを繰り出した。
井戸から戻った後、実はジムリーダーなのだと明かしたツクシに、それなら、とミアがバトルを挑んだ。
そして今、二人のバトルが始まったのだ。
「ストライク、“でんこうせっか”!!」
「リヒト、“でんきショック”よ!」
ストライクの技が当たる寸前、ピカチュウの電撃がストライクを掠める。
ミアは命中しなかったことを一瞬だけ悔しがり、すぐに気を取り直した。
「ならリヒト、こっちも“でんこうせっか”!!」
走り出すピカチュウに、ツクシが笑う。
「遅い! もう一度、“でんこうせっか”!!」
「っリヒト!?」
ミアのピカチュウの攻撃が届くよりも先に、ツクシのストライクの攻撃がピカチュウに届いた。
「ストライク……早いね、リヒト……。ううん、大丈夫。負けないわ!」
傷つきながらも立ち上がろうとするピカチュウに、ミアは笑顔を向ける。
「ごめんねリヒト、もうちょっと力を貸して! ……“でんきショック”!!」
「ストライクっ……!!」
ミアの指示に頷いたピカチュウが、ストライクの隙をついて電撃を放つ。
避けきれなかったストライクは、そのまま戦闘不能となった。
ツクシは慌ててストライクに駆け寄る。
「君は強いね、ミアちゃん」
「えへへ……ありがとうございます!」
誉めるツクシに、ミアは照れくさそうに笑う。
「はい、これ。インセクトバッチだよ」
「わああ……! やったね、リヒト!!」
そんな彼女にバッチを手渡して笑うツクシ。
ミアとピカチュウは嬉しそうな声を上げた。
「でも……まさかツクシさんがジムリーダーだったなんて……」
「え? ……ああ、うん。ごめんね、隠すつもりはなかったんだけど」
喜ぶミアたちを横目に、そう言ったユウにツクシは苦笑いをする。
「君たちのことは、ハヤトから聞いてるよ」
「ハヤトさんから……?」
彼の言葉に、それまで喜んでいたミアが首を傾げ、それまで黙っていたラツキがおずおずと口を開く。
「あの……ツクシさん」
「ん? 何? ラツキくん」
「何であなたたちはオレのことを知ってるんですか?」
真っ直ぐツクシを見つめるラツキのその質問に対し、ツクシは少し困ったように頬を掻いた。
「何でって言われてもね……色々複雑なんだよね」
「……怖いんです、オレ……。自分が何者かわからなくて……。だけど、思い出すのも怖くて」
キキョウシティでの夜、ユウは無理に思い出さなくてもいいのだと言った。
だがやはり、気になるのだ。なぜ記憶をなくしたのか、なぜ狙われているのか……。
(だけど、思い出すのは、怖い)
「ラツキ……」
ラツキの真剣な……それでいて辛そうなその表情に、ユウはかける言葉をなくし戸惑う。
「それに……“守護者”って……?」
自身の味方になる、と言われたその存在。
だが、ラツキからするとその正体すらわからぬ存在なのだ。味方、と言われてもピンと来ない。
すると、意外な言葉が返された。
「……それは、『人ならざる存在』のこと……とだけ言っておこうかな」
「人じゃ……ない……?」
語弊が生じるけどね、と前置きしてそう言ったツクシの表情は、決して明るくはなかった……。
+++
――同じ頃、“BATTLE GENERATION'S"アジト内。
「調査隊、只今戻りました」
必要最低限の灯りしかないアジトの中で、そう言って『リーダー』の前に跪いているのは、調査隊のスヴィア、キル、翼だった。
「やはり、アルフの遺跡は『伝説のポケモン』と関係があるようです」
「そうか」
彼らの報告に淡々とした声で頷いたのは、リーダー……天羽 龍輝。
「リーダー、私たちが『奴ら』を潰してみせますよ」
入り口から好戦的な少女の声が聞こえ、リュウキは無造作に結んだ漆黒に近い青の髪を揺らした。
そこにはユウたちと同年代くらいの少女が立っていた。
「……第二戦闘隊か……」
「リュウキ、いいですね?」
側に控えていたサブリーダーである女性……コズエが、リュウキに確認を取る。
「……ああ」
そして彼がそう頷いたのを確認して、コズエは指示を下す。
「では第二戦闘隊、『“守護者”殲滅作戦』、実行してください」
その言葉に、少女以外のメンバーも姿を現し、頷いて、歩き出した。
『了解』
「……何としてでも手に入れる……」
去っていく少女たちを横目に、リュウキは拳を握り締め、呟く。
「『あいつら』は……絶対に……。
そのためには、“守護者”どもは必ず倒す!!」
暗い色を宿した瞳は、カプセルの中をたゆたう少女を睨んでいた……。
+++
――この世のどこか、白い空間。
「ねえ……祇雅」
「何だ 鳳華」
ギア、と呼ばれた黒い髪の青年は、ホウカ、と呼んだ橙色の髪の女性を見やる。
「あの子と『彼』……早く連れ戻した方が良くないかしら……」
「……わかっている」
呟くようなその声に、ギアは少し間をおいて、頷く。
「……だが、今の『彼』には記憶がない。下手に接触して混乱させてしまうくらいなら、いっそ……」
「……星鬼」
ギアの後ろから現れた仮面の少年……シキは、辛そうな声でそう言った。
そっと気遣わしげに彼を見た後で、ギアは寂しそうに笑う。
「……今の『あいつ』には、信用するに値する“仲間”がいる。……だから、『あいつ』の方はしばらくは大丈夫だろう」
「今は……仕方ない、か……」
ギアの言葉に、シキは拳をぎゅっと握り締める。
『彼女』のことも確かに心配ではあるが、シキにとっては『彼』の方が気がかりだった。
(ああ、あの時オレが、守ってやれたら!!)
後悔を繰り返しても何もないことくらい、シキとて理解している。
『星の鬼』の名を持つ少年は、悔しさに歯を噛み締めた……。
少年を巡る世界は、ゆっくりと動き出す。
第9話 終。
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