――アサギシティ。
「ミカンさん、薬、持ってきました!」
「ありがとうございます」
灯台へ戻って来たミアが元気に笑って薬を手渡すと、ミカンは優しく笑んで礼を言う。
そしてデンリュウにそれを与えた後、二人はジムに戻りバトルを始めたのだった。
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「ケルツェ、“かえんほうしゃ”!」
「避けて、ハガネール!」
ミアのキュウコンがミカンのハガネールへ炎を放つ。
だが、ハガネールは指示通りそれをかわし、次の攻撃に備えた。
「ハガネール、“すなあらし”!」
「きゃあ!?」
ミカンが指示をすると辺り一面に砂嵐が巻き起こり、ミアとキュウコンの視界を奪う。
「ケルツェ……集中して、見えなくても気配でわかるはずよ!」
ミアの指示に頷いて、キュウコンはそっと瞳を閉じた。
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そんなバトルの様子を見ていたゴールドが、傍らに居たシルバーに話しかける。
「……ハル兄とヒジリさん、何の用だったんだろうな?」
「……さあな」
タンバでジム戦を済ませたヒジリとハルアは、シルバーたちと行動を共にすることなくどこかへ行ってしまった。
「……何か大事な用事があるってヒジリさん言ってたけど……」
しばらく考え込んだ後で、ゴールドはこう言った。
「やっぱりあれかな、観光かな!」
エンジュにでも行くのかな、と続けた彼の頭を、シルバーは思い切り叩く。
「難しいことを考えるのをすぐに放棄するのがお前の悪い所だな」
「ってーなぁ。 だってそういうのはお前とかクリスの役目だし」
叩かれた頭を押さえながら、ゴールドはあっけらかんと言い放つ。
それを見て深くため息を吐いたシルバーに、再び彼が問いかけた。
「そういうシルバーは何か心当たりとかあんのかよ」
「心当たり、か……」
そう呟いて、彼女はバトルをしているミアと、それを応援しているラツキたちを見やった。
バトルはもう、終盤のようだ。
+++
「いくら集中しても無駄です!
ハガネール、“アイアンテール”!!」
砂嵐の中から、ハガネールがキュウコンを叩きつけようと動き出す。
その隙を、ミアとキュウコンは見逃さなかった。
「今よ、ケルツェ!!
全力全開で、“ほのおのうず”に閉じ込めちゃえーっ!!」
キュウコンから炎が放たれ、それは砂嵐をかき消しながらハガネールを捕らえる。
「っハガネール!!」
炎が作り出す渦に閉じ込められたハガネールは、やがて体力が尽きて地面に倒れ伏した。
「ハガネール、戦闘不能!
よって勝者は挑戦者・海江 未亜!!」
審判の声が響いて、ミアはキュウコンを抱き締めて喜んだ。
「やったぁぁぁっ!! ケルツェ、ありがとう!!」
「さすがですね、ミアさん」
ミカンが嬉しそうに笑いながら、ミアにジムバッチを手渡した。
「アサギのジムバッチ、スチールバッチです。
あなたならきっと、四天王にも勝てますね」
「あ、ありがとうございます! 頑張りますっ!!」
バッチを受け取って笑うミアに、ラツキが拍手をしながら近づいた。
「ミアさんすごいね!」
「えへへ、ありがとう!」
彼の言葉に照れるミアを見て、クリスが何気なく呟いた。
「そうだ、ユウもジム戦すればいいんじゃないかな?」
「あ、それ良いですね! ユウ、強いし!」
その提案に、ラツキが楽しそうに賛成し、ユウを見る。
「え、あの、それはちょっと……」
「……ユウ。 ジム戦と言わず私とバトルしてよ」
慌てて首を振るユウに、先ほどまで喜んでいたはずのミアが静かな声で告げる。
「バトルしてくれたら、私もうごちゃごちゃ言わないし、今までのこと謝るから」
真っ直ぐに自分を見つめる瞳に、ユウは無意識に目を逸らす。
「……ジム戦は、しません。 ミアちゃんとのバトルも」
「なんで!!」
その言葉に、ミアが声を荒げる。
だがユウは彼女から視線を外したまま、ぽつりと呟いた。
「僕はミアちゃんに謝ってほしいとは思わないから。
……僕は……嘘吐きだから」
「ユウ」
悲しそうに笑うユウの頭を、同じように悲しそうな表情をしたラツキがそっと撫でる。
「そんな悲しいこと、言わないで。
……ユウの気持ち、考えないでごめんね」
そう言いながら、ラツキの脳裏にはハルアの言葉が浮かんでいた。
――……『七年前』、『トキワ攻防戦』、『ロケット団』、『人狩り』……。
君を歪ませてしまったのは……それらか?――
(……ユウがバトルしたがらないのは、きっと過去に何かあったからだ)
(オレは……ユウにもミアさんにも、何もしてあげられないのかな……)
「ラツキ?」
思考の渦に落ちたラツキを呼び戻したのは、目の前にいたユウだった。
先ほどから一転して、心配そうな表情で彼を見ていた。
「えっと……心配かけちゃって、ごめん。
僕は気にしてないから」
「あ……ううん、ユウが良いなら、いいんだ……」
きっと、過去の話を聞いたら嫌われてしまう。
ラツキはそう思って、笑顔の裏で全ての言葉を飲み込んだ。
+++
「……」
「……シルバーさん」
ユウたちを静かに見守っていたシルバーに、不意にミカンが声をかける。
「……何だ」
「……彼らのこと……何だか不安なんです。
あなたには、どこまで見えているのですか?」
ミカンの言葉は、恐らくシルバーの予知能力のことを指しているのだろう。
隣にいたゴールドは黙って成り行きを見ることにした。
「……私に視えたのは、この一連の騒動の流れと結末だけだ。
それに……未来は、いくらでも変えられる」
例え結末が悲しくても、きっと変えられるから。
ゴールドたちも、ハルアたちも、そうして自分たちの運命を乗り越えて……そして、シルバーを救ったのだから。
(そうだ、未来は変えられる)
(二年前のあの時も、シルバーが見た自分自身の結末を、オレたちも彼女も変えたのだから)
「彼らの歪みが、最悪の結末にならないよう……お願いします、私たちジムリーダーの分まで、あの子を……彼らを、見守ってください」
ミカンの祈るような頼みに、シルバーとゴールドは静かに……だが確かに、頷いた。
(未来の先に、きみと彼女と僕が笑っていられるような)
(そんな世界なら、良いのに)
第21話 終。
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