第15話 怖いのは、僕自身。


 ――自然公園。


「なんか……新しい謎、増えちゃったね」

 ミアがユウとラツキに言う。
 公園内に吹く爽やかな風とは違う、何とも言えない空気がユウたちを包んでいた。

「そうだね……。 “守護者ガーディアン”に関することなんか、全然わかんないし……」

 ユウがため息混じりにそう言うと、彼らの前方から低い声が聞こえた。

「それは、私の一族のことだ」

「!! シルバーさん!?」

 彼らがその声の方向を見やると、無表情のまま紅い髪を風に揺らしているシルバーと笑顔のゴールド、そして見知らぬ少年少女がいたのだった。

「よ」

「久しぶりー、ユウ、ミア、ラツキ」

 シルバーとゴールドはそう軽く挨拶をし、彼女たちの隣にいた金髪の少年と茶髪の少女が自己紹介をした。

「えっと、はじめまして。 ゴールドたちの友達のクリスタル・エスリートって言います」

「同じくはじめまして! 私はエリア・ミラカナだよ。
 君たちのことはシルバーちゃんから聞いてたの。 よろしくね!」

「あ、はい。 よろしくお願いします」

 それに頷いて、ユウたちも軽く自己紹介をする。
 和やかな雰囲気が、その場を包み込んだ。

 +++

「……それにしても、さっきの……“守護者”って……」


 一通り自己紹介を終えたユウが、シルバーに向き直り、そう尋ねる。
 隣のラツキとミアも不安げな表情だ。

「さっきも言っただろう。 それは、私の一族のことだ、と」

 その言葉に、今度はラツキが口を開いた。

「あの……。 オレのこと……オレの過去を知ってるって……本当です、か……?」

「……ハヤトか。 ……まあいい」

 相変わらず不安げな顔のラツキに、シルバーはため息をついた。

(余計なことを、べらべらと)

「確かに私は……ラツキ、お前の過去を知っている。
 ……だが、真実というのは自分の目で見て知るものだ」

「でも……っ!!」

 淡々と話す彼女に、涙声になりながらもラツキは食い下がる。

「……“LEGENDZ”……という組織は知ってるか?」

 唐突に、シルバーは彼らに問いかけた。

「……あ、アカネさんが言ってた……」

 ミアが思い出したように答え、ユウとラツキも頷く。
 シルバーは相変わらず無表情で、考えが読み取れない。

「ラツキがその一員なのは見ればわかるな?」

「……はい」

 ユウが頷く。
 彼ら……“LEDENDZ”とラツキの共通点は、色違いのペンダントと一房だけ地毛と色違いの左側の髪だった。

「私たちの一族……“守護者”は、そいつらを護ってきた」

「……なんで……?」

 ミアが不思議そうに首を傾げながら尋ねる。

「……それはまだ、話すときじゃない」

 シルバーが言うと、黙って彼女たちの話を聞いていたゴールドたちも少し曇った表情を見せた。

「そんな……」

「……とにかく、“BATTLE GENERATION'S”も動き出した。 私たちもお前らと行動することにする」

 やっと手がかりを見つけたと思っていたラツキは、悲しそうにうなだれる。

(少し、ホッとした、なんて)

 だがその様子に気付かないユウとミアが、シルバーの言葉に嬉しそうな声を上げた。

「え、シルバーさんたち一緒に来てくれるんですか!? 心強いなぁ!」

「きゃー! 私、ゴールドさんと一緒に戦うなら、いつもの百倍がんばっちゃいます!!」

 わいわいと騒ぐユウたちと、苦笑いのゴールドたち。
 彼らを横目で見やりながら、シルバーは目の前の記憶喪失の少年に話しかけた。

「……お前は、本当に記憶を取り戻したいのか?」

 静かに、けれどはっきりと、声を紡ぐ。
 ラツキはその内容に、ひゅっと息を飲んだ。

「そ、れは……」

 震える拳を握り締める。

(思い出すべきだろう、だけど)

「……怖い、のか?」

「っ!!」

 紅い少女の冷めた瞳に、ラツキは体を強ばらせた。

「お、れは、オレは、どうしたら」

 泣き出しそうな声音で、シルバーを見つめるラツキ。
 彼女はため息を吐いて、その茶髪の頭を撫でた。

「それは、お前の自由だ。 ……好きにすればいい」

「……」

 冷たいような彼女の台詞に、ラツキは押し黙る。

(まるでいじめてる気分だな)

 涙を堪えるその姿に、シルバーはひっそりと何回目かのため息をついた。

「……思い出さなきゃ、とはわかってるんです……。 でも、その、やっぱり怖く、て」

 脳裏にあの仮面の少年……シキが過ぎる。
 別れ際の彼の姿が、悲しそうだった、とラツキはふと思い出した。

(知り合い、だったんだろう、だからこそ、あんなに)

「……あまり難しく考えすぎるな。 強制的に取り戻す手段はあるしな」

「え……」

 それを聞いて、ラツキは固まる。
 無理やり思い出させられる、と思ったようだ。

「……まあ、その為には“BATTLE GENERATION'S”を倒さなければいけないけどな」

 低い声音の中に、楽しげな響きを含ませながら、シルバーは言う。

「……倒したら、もしかして強制的に……」

「それはお前次第だ」

 怯えたようなラツキの問いは、あっさりと言い切られる。
 それまでに決めることだな、と楽しげなシルバーに対し、ラツキは青い顔をして黙ってしまった。

(……もしかして、シルバーさんなりに励まそうとしてくれたの……かな……?)

 ふとラツキはそう思い、シルバーを見やる。
 だが、すでに彼女は未だに騒いでいるゴールドたちの輪に加わっていた。

 ぎゅっと、ラツキは自身の胸元を握り締める。
 不安や恐怖はまだ少しあるが、板挟みの焦燥感は、消えていた。



(だけどまだ、聞こえる『声』には耳を塞いで)



 第15話 終。