第14話 アカネ


 ――コガネシティ。

 夕暮れに染まる街のとある建物の中に、ポケギアの電子音が響く。
 少女はそれを手に取り、電話に出た。

《ピリリリリ……ピッ》

『あ! もしもし、ツクシだけど……』

 電話の向こうから、年若い青年……ツクシの声が聞こえる。

『そっちに“例の少年”たちが行ったよ。 そろそろ着く頃だと思うから』

「おっけー、任せとき! このアカネちゃんがしっかり面倒見たるで!」

 ツクシがそう言うと、電話に出た少女は元気よく答えた。
 彼女の名前はアカネ。 この街のジム……コガネジムのジムリーダーだ。

『え? えーっと……じゃ、じゃあ、よろしくね?』

 ツクシは困ったような……それでいて不安げな声で言い、電話を切ったのだった。


 +++


 翌朝。
 前日の夕方にコガネに着いたユウたちは、ポケモンセンターに一泊していた。
 そして朝早くにユウたちの部屋の扉を開け放ったミアは、開口一番にこう言った。

「さあ、今日はジム戦よっ!!」

「ミアちゃん元気だね……」

 朝っぱらからもうバトルする気なのか、とユウは内心思う。
 だが、眠たげな二人を外へ連れ出したミアは、ユウの呆れたような視線に目もくれず、ジムに向かって走り出してしまった。

「おーいミアちゃーん……」

「……ね、ユウ」

 眠そうな声で、ユウは前方を走るミアを呼ぶ。
 そんな彼に、ずっと何かを考えていたラツキが話しかけた。

「やっぱりここのジムリーダーも、オレたちのこと知ってるのかな」

「……多分ね」

 思い詰めたような表情のラツキに、ユウは曖昧に頷く。
 ……と、その時。

「二人ともー! 早くー!!」

 ミアが彼らを呼び、再び走り出そうとしていた。

「あ、うん! すぐ行くよ」

「でもミアさん、そんなに急ぐと……」

 ユウが答え、ラツキが注意する……が、最後まで言い切る前に、ミアは誰かとぶつかった。

 ――ドンッ!!!

「きゃあ!?」

「わっ!?」

 ぶつかった衝撃で、お互い尻餅をつく。
 そこへユウたちが駆けつけた。

「ミアちゃん、大丈夫?」

「だから言ったのに……」

 心配するユウとは対照的に、呆れたようにため息をつくラツキ。

「あたたた……ごめんな、大丈夫やった?」

「あ、は、はい! こちらこそすみせんでした!」

 ミアがぶつかったのは、ユウたちより少し年上の少女だった。
 独特の訛りで話すその少女に、ミアは頷いて謝罪をする。

「ええよええよ、元気なんはええことやん!
 うちはコガネのジムリーダー、アカネ!
 待っとったで、ユウ、ミア、ラツキ!」

 しかし少女は気にしてない、と手を振り、唐突に自己紹介を始めた。
 ユウは呆然としながらも彼女……アカネに尋ねる。

「待ってたって……じゃあやっぱり、あなたも?」

「うん。 ツクシから、これまでのことは聞いたで」

 ユウに肯定してみせたアカネを見て、ミアがぐっと拳を握る。

「なら話が早いわ!! 私とジム戦してくださいっ!!」

「おっけー、ほんならジム行こか!」

 張り切る少女二人に、ユウとラツキは顔を見合わせため息をついた。

 +++

 ――コガネジム。


「ミルタンク、“ころがる”や!!」

「リヒト、避けるのよ!!」

 バトルは既に終盤を迎えていた。 アカネのポケモンは最後の一匹。
 弱点が少ないノーマルタイプのポケモンを使う彼女に、ミアのピカチュウも相当なダメージを受けている。

「甘いで! ミルタンク、“メロメロ”!!」

「っリヒト!!」

 ♀のミルタンクの“メロメロ”が、♂のピカチュウにヒットする。
 ミルタンクにメロメロ状態となったピカチュウへ、アカネは畳みかける。

「もっかい“ころがる”や!!」

 避けきれなかったピカチュウは、ミルタンクの攻撃を受けて戦闘不能となる。

「リヒトっ!! ごめんね、大丈夫!?」

 慌てて駆け寄り、ミアはピカチュウをボールに戻した。

「リヒトのためにも……負けないわ!」

 力を貸してね、と別のボールを投げるミア。
 中から出てきたのはヨルノズク。
 ウバメの森でゲットした、ミアの手持ちの新顔だ。

「お願い、フリューゲル!!」

「ふん、何を出そうと無駄やで!! ミルタンク、“メロメロ”!!」

 アカネが再び“メロメロ”を指示しようとするが、ミアのヨルノズクの方が早かった。

「フリューゲル、“さいみんじゅつ”!!」

「えっ、ちょ!! っ眠ってもたか……!」

 ヨルノズクの“さいみんじゅつ”が当たったミルタンクは、その場で気持ちよさそうに眠ってしまった。

「今よ、フリューゲル!! “つつく”、そして“たいあたり”!!」

 ミアの指示に、ヨルノズクのコンボが決まる。
 ミルタンクは眠ったまま、戦闘不能になった。

「みっミルタンク!!」

 アカネは急いでミルタンクに駆け寄り、肩を落とした。
 審判がミアの勝利を告げる声が、ジム内に響き渡る。

「や……やったわ!!」

 ヨルノズクを抱き締め喜ぶミアに、アカネがジムバッチを差し出した。

「負けや、完敗や! このレギュラーバッチはミア、あんたのもんや」

「あ……ありがとうございます!」

 少女たちは笑顔で、固く握手を交わした。

「いやあ、あんたホンマ強いなぁ。 これやったら大丈夫やろ」

「大丈夫って……何が、ですか?」

 唐突なアカネの言葉に、ミアは首を傾げる。

「あんたらも知っとるやろ? “BATTLE GENERATION'S”」

「!!」

 その単語に、ユウたちは思わず身を固くする。

「まあ、“守護者ガーディアン”と“奴ら”も動き出したし心配はしとらんけどな」

 のんびりと話すアカネに、ラツキが口を開いた。

「“奴ら”って……」

「あれ、あんたら会わんかったん?」

 ラツキの疑問に、アカネが不思議そうに尋ねる。
 ……本当に、ジムリーダーたちは何をどこまで知っているのだ、と思いながら、ラツキは脳裏に浮かんだ答えを呟いた。

「……シキさんたち……?」

「そ。 まあ、うちらは“LEGENDZレジェンズ”って呼んどるんやけどな」

「“LEGENDZ”……?」


 +++


 ――ワカバタウン。


 ――……いずれ、大きな戦いになる……。 それは避けられない運命なのか……?――

 シルバーは悲しげに瞳を伏せ、そっと考える。

「……シルバー」

 気遣うようなゴールドの声に、紅の少女は顔を上げた。

「……行こう」


(もし、避けられないというのなら……私は)


 彼女はゴールドを含む三人の仲間を見やる。
 銀が混ざった紅の瞳には、決意が溢れて。


 ――私は、彼ら・・を守ってみせる――



 第14話 終。