――コガネシティ。
夕暮れに染まる街のとある建物の中に、ポケギアの電子音が響く。
少女はそれを手に取り、電話に出た。
《ピリリリリ……ピッ》
『あ! もしもし、ツクシだけど……』
電話の向こうから、年若い青年……ツクシの声が聞こえる。
『そっちに“例の少年”たちが行ったよ。 そろそろ着く頃だと思うから』
「おっけー、任せとき! このアカネちゃんがしっかり面倒見たるで!」
ツクシがそう言うと、電話に出た少女は元気よく答えた。
彼女の名前はアカネ。 この街のジム……コガネジムのジムリーダーだ。
『え? えーっと……じゃ、じゃあ、よろしくね?』
ツクシは困ったような……それでいて不安げな声で言い、電話を切ったのだった。
+++
翌朝。
前日の夕方にコガネに着いたユウたちは、ポケモンセンターに一泊していた。
そして朝早くにユウたちの部屋の扉を開け放ったミアは、開口一番にこう言った。
「さあ、今日はジム戦よっ!!」
「ミアちゃん元気だね……」
朝っぱらからもうバトルする気なのか、とユウは内心思う。
だが、眠たげな二人を外へ連れ出したミアは、ユウの呆れたような視線に目もくれず、ジムに向かって走り出してしまった。
「おーいミアちゃーん……」
「……ね、ユウ」
眠そうな声で、ユウは前方を走るミアを呼ぶ。
そんな彼に、ずっと何かを考えていたラツキが話しかけた。
「やっぱりここのジムリーダーも、オレたちのこと知ってるのかな」
「……多分ね」
思い詰めたような表情のラツキに、ユウは曖昧に頷く。
……と、その時。
「二人ともー! 早くー!!」
ミアが彼らを呼び、再び走り出そうとしていた。
「あ、うん! すぐ行くよ」
「でもミアさん、そんなに急ぐと……」
ユウが答え、ラツキが注意する……が、最後まで言い切る前に、ミアは誰かとぶつかった。
――ドンッ!!!
「きゃあ!?」
「わっ!?」
ぶつかった衝撃で、お互い尻餅をつく。
そこへユウたちが駆けつけた。
「ミアちゃん、大丈夫?」
「だから言ったのに……」
心配するユウとは対照的に、呆れたようにため息をつくラツキ。
「あたたた……ごめんな、大丈夫やった?」
「あ、は、はい! こちらこそすみせんでした!」
ミアがぶつかったのは、ユウたちより少し年上の少女だった。
独特の訛りで話すその少女に、ミアは頷いて謝罪をする。
「ええよええよ、元気なんはええことやん!
うちはコガネのジムリーダー、アカネ!
待っとったで、ユウ、ミア、ラツキ!」
しかし少女は気にしてない、と手を振り、唐突に自己紹介を始めた。
ユウは呆然としながらも彼女……アカネに尋ねる。
「待ってたって……じゃあやっぱり、あなたも?」
「うん。 ツクシから、これまでのことは聞いたで」
ユウに肯定してみせたアカネを見て、ミアがぐっと拳を握る。
「なら話が早いわ!! 私とジム戦してくださいっ!!」
「おっけー、ほんならジム行こか!」
張り切る少女二人に、ユウとラツキは顔を見合わせため息をついた。
+++
――コガネジム。
「ミルタンク、“ころがる”や!!」
「リヒト、避けるのよ!!」
バトルは既に終盤を迎えていた。 アカネのポケモンは最後の一匹。
弱点が少ないノーマルタイプのポケモンを使う彼女に、ミアのピカチュウも相当なダメージを受けている。
「甘いで! ミルタンク、“メロメロ”!!」
「っリヒト!!」
♀のミルタンクの“メロメロ”が、♂のピカチュウにヒットする。
ミルタンクにメロメロ状態となったピカチュウへ、アカネは畳みかける。
「もっかい“ころがる”や!!」
避けきれなかったピカチュウは、ミルタンクの攻撃を受けて戦闘不能となる。
「リヒトっ!! ごめんね、大丈夫!?」
慌てて駆け寄り、ミアはピカチュウをボールに戻した。
「リヒトのためにも……負けないわ!」
力を貸してね、と別のボールを投げるミア。
中から出てきたのはヨルノズク。
ウバメの森でゲットした、ミアの手持ちの新顔だ。
「お願い、フリューゲル!!」
「ふん、何を出そうと無駄やで!! ミルタンク、“メロメロ”!!」
アカネが再び“メロメロ”を指示しようとするが、ミアのヨルノズクの方が早かった。
「フリューゲル、“さいみんじゅつ”!!」
「えっ、ちょ!! っ眠ってもたか……!」
ヨルノズクの“さいみんじゅつ”が当たったミルタンクは、その場で気持ちよさそうに眠ってしまった。
「今よ、フリューゲル!! “つつく”、そして“たいあたり”!!」
ミアの指示に、ヨルノズクのコンボが決まる。
ミルタンクは眠ったまま、戦闘不能になった。
「みっミルタンク!!」
アカネは急いでミルタンクに駆け寄り、肩を落とした。
審判がミアの勝利を告げる声が、ジム内に響き渡る。
「や……やったわ!!」
ヨルノズクを抱き締め喜ぶミアに、アカネがジムバッチを差し出した。
「負けや、完敗や! このレギュラーバッチはミア、あんたのもんや」
「あ……ありがとうございます!」
少女たちは笑顔で、固く握手を交わした。
「いやあ、あんたホンマ強いなぁ。 これやったら大丈夫やろ」
「大丈夫って……何が、ですか?」
唐突なアカネの言葉に、ミアは首を傾げる。
「あんたらも知っとるやろ? “BATTLE GENERATION'S”」
「!!」
その単語に、ユウたちは思わず身を固くする。
「まあ、“守護者”と“奴ら”も動き出したし心配はしとらんけどな」
のんびりと話すアカネに、ラツキが口を開いた。
「“奴ら”って……」
「あれ、あんたら会わんかったん?」
ラツキの疑問に、アカネが不思議そうに尋ねる。
……本当に、ジムリーダーたちは何をどこまで知っているのだ、と思いながら、ラツキは脳裏に浮かんだ答えを呟いた。
「……シキさんたち……?」
「そ。 まあ、うちらは“LEGENDZ”って呼んどるんやけどな」
「“LEGENDZ”……?」
+++
――ワカバタウン。
――……いずれ、大きな戦いになる……。 それは避けられない運命なのか……?――
シルバーは悲しげに瞳を伏せ、そっと考える。
「……シルバー」
気遣うようなゴールドの声に、紅の少女は顔を上げた。
「……行こう」
(もし、避けられないというのなら……私は)
彼女はゴールドを含む三人の仲間を見やる。
銀が混ざった紅の瞳には、決意が溢れて。
――私は、彼らを守ってみせる――
第14話 終。
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