第12話 空に溶ける、きみの


 ――三十四番道路。


「ふー……。やあーっと鬱陶しい森を抜けたわーっ!!」

 ウバメの森を抜け、ミアが伸びをしながら開口一番にそう言った。
 そんな彼女の後ろから、ラツキは彼女を呼んだ。

「み、ミアさんっ」

 ミアが振り向くと、そこには足早に行ってしまった彼女に追いつこうと、必死になって走ってきたユウの姿があった。
 彼は根っからのインドア派らしく、息も絶え絶え、という状態だった。

「ミア、ちゃん……早……いよ……」

「何よ、ユウってば本っ当に体力ないんだから!」

「み、ミアちゃんが早いんだよー……」

 肩で息をするユウに、ミアは呆れたようにため息をつく。
 情けないわ、と言う彼女に反論するユウ。
 寂しげな笑顔で、ラツキはそれを眺めていた。

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 そんな彼らを、木の上から見つめる影があった。

「……どーする?」

 一人の少女が口を開く。

「どうする、って?」

「だって、あの人たち、敵でしょ?」

 聞き返した少年に、敵は倒さなきゃ、と言う少女。

「あのな……ピアノ。
 僕らはリーダーに、“守護者ガーディアン”を倒せと命じられているんだぞ?」

「……丁度いいし、あいつら先に倒していいって、ルウ。
 さっきリーダーから連絡があった」

 呆れたような少年に、別の少女がポケギアを仕舞いながら伝える。
 その報告を聞いて、少年にピアノと呼ばれた少女は嬉しそうに笑う。

「ホントっ!? ヒカリちゃんっ!! じゃあ早速行こう!」


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「でさ、お母さんね、暇さえあれば電話してきてさー」

 その頃、ユウたちはミアの話を聞いていた。
 ユウは幼い頃に両親と死別し、ラツキは憶えていない。
 だから二人は、そんなミアの話を微笑ましく思っていた。
 と、そのとき。

「ねえねえ! あなたたち、トレーナーだよね? 私たちとバトルしない?」

 茶髪の少女に声をかけられた。
 その後ろには、ピンクの髪の少女と、水色の髪の少年もいる。

「え!? バトルっ!?」

 バトル、という単語に目を輝かせ、その少女に目を向けたのはミアだった。
 そんな彼女に満足そうに頷いて、少女は自己紹介を始める。

「私はピアノ!
 こっちのピンクの髪の子はヒカリちゃんで、水色の髪の彼はルウくんっていうの!」

「私はミア、こっちはユウとラツキよ!」

 それに倣ってミアもユウとラツキの分も名乗った。
 手にはすでにボールを握っている。

「じゃあ、三対三ね! いくよ……!」

「待って!」

 そう言ってミアがモンスターボールを投げようとした、その時。 ピンクの髪の少女……ヒカリが声を上げた。

「その前に、賭けをしない?」

「賭け……?」

 その突然の提案に、ミアたちは戸惑う。

「そう。 私たちが勝ったら、ラツキくんを渡して。
 あなたたちが勝ったら、私たちのこと全部教えてあげる」

「え……!?」

 淡々と言うヒカリに、ユウたちは驚く。

「じゃあ……もしかして、君たちは……“BATTLE GENERATION'S”の……!?」

 ラツキがそう叫ぶと、ルウがそういうこと、と頷いた。

「わかったらいくよッ!! レオっ!!
 私の相手はユウ、あんただッ!」

「……いいよ。望むところだ。フィエ!!」

 ライチュウを出したヒカリはユウを指名する。
 それを受けたユウは、いつものように鋭い瞳になり、グライガーを繰り出した。

「僕の相手はミア! 君だ!!」

「上等よっ!! リヒトっ!!」

 ミアを指名してニョロボンを出したルウに、彼女は頷きピカチュウが入ったボールを投げた。

「ってワケで、私の相手はラツキよ!」

「……ラタ!」

 ロコンを繰り出して、ピアノは残ったラツキを指名する。
 ラツキは彼女をキッと睨んで、タマザラシの入っているボールを投げた。


「レオ! “10まんボルト”!!」

「”かげぶんしん”!!」

 ヒカリのライチュウが“10まんボルト”を放つが、ユウのグライガーはそれを交わし、さらに素早く動き自身の分身を作りだした。
 相手を惑わして自分の回避率を上げる技だ。

「“かげぶんしん”……!? ば、馬鹿にして!!」

 ダメージを与えないグライガーの技に、ヒカリは怒りを覚えたようだ。
 ユウはそんな彼女をせせら笑う。

「ああ、じゃあすぐ終わらせてやるよ……フィエ、“じしん”!!」

「……ッレオ!? そんな、一撃で……!?」

 グライガーは滑空した勢いのまま降り立った地面を揺らし、ライチュウは目を回して戦闘不能となる。
 ヒカリはライチュウを抱きかかえ、暗い笑みを浮かべるユウを睨んだ。


「ニョロボン! “からてチョップ”!!」

「リヒト! “でんこうせっか”!!」

 一方、ミアとルウのバトルも終盤を迎えていた。
 ルウのニョロボンが“からてチョップ”を繰り出すが、ミアのピカチュウはそれをかわす。

「今よ! “でんきショック”!!」

「っニョロボンッ!!」

 そうして隙を見せたニョロボンにピカチュウは“でんきショック”を放ち、ニョロボンは効果抜群で戦闘不能となった。
 勝ったよ、と駆け寄ってきたピカチュウを抱き上げ、ミアはほっとしたような笑顔を浮かべた。


「ココ! “かえんほうしゃ”!」

「ラタ、かわして!!」

 ピアノのロコンが火を吐く。
 それを何とかかわしたタマザラシに、ラツキは続けて指示を出す。

「ラタ、“みずてっぽう”!!」

「ココ、避け……きゃあっ!?」

 炎タイプのロコンに水タイプの技は効果が抜群だ。
 タマザラシが放った水が、避けようとしたロコンに命中する。 そのままロコンは戦闘不能になった。

「お前たちのポケモンは三匹とも戦闘不能……。
 さあ、教えてもらおうか。お前たちのことを!!」

 瀕死状態のポケモンを抱き締めてユウたちを睨むヒカリたちを、彼は問い詰める。
 ユウの口調や表情には、いつもの優しさがなかった。

「教えてくれる……約束だよな?
 なぜラツキを狙う? なぜシオンを攫った!?」

「……それは……」

 ぐっと手を握りしめて、悔しそうにヒカリが口を開きかけた、そのときだった。


「そこまでだ」


 低い青年の声が、潮風に乗って響いた。
 全員がその声の方向を見やる。
 漆黒に近い青の髪の青年が、無造作に束ねた後ろ髪を風に遊ばせながら立っていた。

「……お前は……ッ!!」

 殺意を込めたユウの声が、傾きかけた空に溶けていった。



 第12話 終。