――三十四番道路。
「ふー……。やあーっと鬱陶しい森を抜けたわーっ!!」
ウバメの森を抜け、ミアが伸びをしながら開口一番にそう言った。
そんな彼女の後ろから、ラツキは彼女を呼んだ。
「み、ミアさんっ」
ミアが振り向くと、そこには足早に行ってしまった彼女に追いつこうと、必死になって走ってきたユウの姿があった。
彼は根っからのインドア派らしく、息も絶え絶え、という状態だった。
「ミア、ちゃん……早……いよ……」
「何よ、ユウってば本っ当に体力ないんだから!」
「み、ミアちゃんが早いんだよー……」
肩で息をするユウに、ミアは呆れたようにため息をつく。
情けないわ、と言う彼女に反論するユウ。
寂しげな笑顔で、ラツキはそれを眺めていた。
+++
そんな彼らを、木の上から見つめる影があった。
「……どーする?」
一人の少女が口を開く。
「どうする、って?」
「だって、あの人たち、敵でしょ?」
聞き返した少年に、敵は倒さなきゃ、と言う少女。
「あのな……ピアノ。
僕らはリーダーに、“守護者”を倒せと命じられているんだぞ?」
「……丁度いいし、あいつら先に倒していいって、ルウ。
さっきリーダーから連絡があった」
呆れたような少年に、別の少女がポケギアを仕舞いながら伝える。
その報告を聞いて、少年にピアノと呼ばれた少女は嬉しそうに笑う。
「ホントっ!? ヒカリちゃんっ!! じゃあ早速行こう!」
+++
「でさ、お母さんね、暇さえあれば電話してきてさー」
その頃、ユウたちはミアの話を聞いていた。
ユウは幼い頃に両親と死別し、ラツキは憶えていない。
だから二人は、そんなミアの話を微笑ましく思っていた。
と、そのとき。
「ねえねえ! あなたたち、トレーナーだよね? 私たちとバトルしない?」
茶髪の少女に声をかけられた。
その後ろには、ピンクの髪の少女と、水色の髪の少年もいる。
「え!? バトルっ!?」
バトル、という単語に目を輝かせ、その少女に目を向けたのはミアだった。
そんな彼女に満足そうに頷いて、少女は自己紹介を始める。
「私はピアノ!
こっちのピンクの髪の子はヒカリちゃんで、水色の髪の彼はルウくんっていうの!」
「私はミア、こっちはユウとラツキよ!」
それに倣ってミアもユウとラツキの分も名乗った。
手にはすでにボールを握っている。
「じゃあ、三対三ね! いくよ……!」
「待って!」
そう言ってミアがモンスターボールを投げようとした、その時。 ピンクの髪の少女……ヒカリが声を上げた。
「その前に、賭けをしない?」
「賭け……?」
その突然の提案に、ミアたちは戸惑う。
「そう。 私たちが勝ったら、ラツキくんを渡して。
あなたたちが勝ったら、私たちのこと全部教えてあげる」
「え……!?」
淡々と言うヒカリに、ユウたちは驚く。
「じゃあ……もしかして、君たちは……“BATTLE GENERATION'S”の……!?」
ラツキがそう叫ぶと、ルウがそういうこと、と頷いた。
「わかったらいくよッ!! レオっ!!
私の相手はユウ、あんただッ!」
「……いいよ。望むところだ。フィエ!!」
ライチュウを出したヒカリはユウを指名する。
それを受けたユウは、いつものように鋭い瞳になり、グライガーを繰り出した。
「僕の相手はミア! 君だ!!」
「上等よっ!! リヒトっ!!」
ミアを指名してニョロボンを出したルウに、彼女は頷きピカチュウが入ったボールを投げた。
「ってワケで、私の相手はラツキよ!」
「……ラタ!」
ロコンを繰り出して、ピアノは残ったラツキを指名する。
ラツキは彼女をキッと睨んで、タマザラシの入っているボールを投げた。
「レオ! “10まんボルト”!!」
「”かげぶんしん”!!」
ヒカリのライチュウが“10まんボルト”を放つが、ユウのグライガーはそれを交わし、さらに素早く動き自身の分身を作りだした。
相手を惑わして自分の回避率を上げる技だ。
「“かげぶんしん”……!? ば、馬鹿にして!!」
ダメージを与えないグライガーの技に、ヒカリは怒りを覚えたようだ。
ユウはそんな彼女をせせら笑う。
「ああ、じゃあすぐ終わらせてやるよ……フィエ、“じしん”!!」
「……ッレオ!? そんな、一撃で……!?」
グライガーは滑空した勢いのまま降り立った地面を揺らし、ライチュウは目を回して戦闘不能となる。
ヒカリはライチュウを抱きかかえ、暗い笑みを浮かべるユウを睨んだ。
「ニョロボン! “からてチョップ”!!」
「リヒト! “でんこうせっか”!!」
一方、ミアとルウのバトルも終盤を迎えていた。
ルウのニョロボンが“からてチョップ”を繰り出すが、ミアのピカチュウはそれをかわす。
「今よ! “でんきショック”!!」
「っニョロボンッ!!」
そうして隙を見せたニョロボンにピカチュウは“でんきショック”を放ち、ニョロボンは効果抜群で戦闘不能となった。
勝ったよ、と駆け寄ってきたピカチュウを抱き上げ、ミアはほっとしたような笑顔を浮かべた。
「ココ! “かえんほうしゃ”!」
「ラタ、かわして!!」
ピアノのロコンが火を吐く。
それを何とかかわしたタマザラシに、ラツキは続けて指示を出す。
「ラタ、“みずてっぽう”!!」
「ココ、避け……きゃあっ!?」
炎タイプのロコンに水タイプの技は効果が抜群だ。
タマザラシが放った水が、避けようとしたロコンに命中する。 そのままロコンは戦闘不能になった。
「お前たちのポケモンは三匹とも戦闘不能……。
さあ、教えてもらおうか。お前たちのことを!!」
瀕死状態のポケモンを抱き締めてユウたちを睨むヒカリたちを、彼は問い詰める。
ユウの口調や表情には、いつもの優しさがなかった。
「教えてくれる……約束だよな?
なぜラツキを狙う? なぜシオンを攫った!?」
「……それは……」
ぐっと手を握りしめて、悔しそうにヒカリが口を開きかけた、そのときだった。
「そこまでだ」
低い青年の声が、潮風に乗って響いた。
全員がその声の方向を見やる。
漆黒に近い青の髪の青年が、無造作に束ねた後ろ髪を風に遊ばせながら立っていた。
「……お前は……ッ!!」
殺意を込めたユウの声が、傾きかけた空に溶けていった。
第12話 終。
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