第11話 未来を願う


 ユウたちがウバメの森に入る前日、ワカバタウン。
 朝と言うには少し遅い時間、シルバーはまだ眠っていた。


 断片的に流れる映像ユメに映る、漆黒に近い青の髪の青年。
 桃色の髪の女性、黒い髪の青年。 そして……。


「……ッ!!」

 突然シルバーは目を覚ます。
 ただの夢、ではないそれは、彼女が生まれつき持っている“守護者ガーディアン”としてのチカラ……『予知能力』だった。

「……動き、出した……奴ら・・が……」

 夢で視たその『未来』には、“BATTLE GENERATION'S”と、彼女が“奴ら”と呼ぶ存在たちがいた。
 危惧していた未来が、訪れようとしている。
 シルバーは自身の腕をそっと掴み、自嘲気味に目を閉じた。

(そんなこと、初めからわかっていたのに)

 ……と、そのとき。

 ――コンコン

 部屋のドアをノックする音が聞こえ、その方向を見やる。
 しばらくして勝手に入ってきた人物……ゴールドは、いつもの笑顔でシルバーに挨拶をした。

「よっ! おはよう、シルバー!」

「……ああ」

 相変わらず元気だな、などと思いながら、シルバーは彼に先ほど夢で予知したことを話し出した。

 +++

「“BATTLE GENERATION'S”が動き出したあっ!?」


 彼女から話を聞いたゴールドは、驚いてそう叫んだ。
 彼とてそのうち“BATTLE GENERATION'S”が動き出すとはわかっていた。ただ、彼らの予想よりも行動が早いことに驚いただけで。

「ああ。確実にラツキを手に入れ……私たち“守護者ガーディアン”を亡き者にするためにな。
 ……それに奴ら・・も、だ」

「奴ら……ああ、うん。そっか、そうだよな。
 ラツキが狙われてるのは明白だもんなあ」

 “奴ら”……それが誰を指すのかはっきりとは言わなかったが、ゴールドは理解する。

「……うーん、シルバーの予知能力ってほぼ絶対当たるんだよなあ……」

 ゴールドが今にも助けに行く、と言わんばかりの表情で思わず呟く。
 その呟きが聞こえた彼女は、口元にふっと笑みを浮かべた。

「……だが、“未来は変えられる”。 それは、他ならない私たちがよく知っているはずだ。
 だから……私たちも、動くべき時が来た」

「!! それって……!!」

 シルバーの言葉に、驚いて顔を上げるゴールド。

「行くぞ。早くユウたちに合流しないとな」

 不敵な笑みを浮かべる彼女を見て、ゴールドはきょとんとする。

「なんだ? ……どうせ、ついて来る気なんだろ?」

「……っ当たり前だろ!」

 もとより、断られてもついて行く気だったのだ。
 本人から直接誘われたゴールドは、久々の旅に上機嫌で準備を始める。
 だが、嬉しさの余り普段よりも騒いでシルバーに怒られたというのは、別の話。


 +++


 この世のどこか、白い空間。

「……祇雅ギア

「……何だ、星鬼シキ

 何かを決心したようなシキの声に、ギアは彼に向き直る。

「……やはり……オレは、あいつの元へ、行く」

「……この状況下だ。そんなことをミオが許すと思うか?
 だいたいどういう心境の変化だ」

 切羽詰まった彼の表情を見たギアは、苦々しげにそう返す。
 先日は『彼』を混乱させるくらいなら、表舞台にはまだ立たないと言ったはずだったシキに、首を傾げながら。

「……だがっ!! オレの、オレのせいであいつは……。
 怖がられてもいい、嫌われてもいい!! 今度こそ、今度こそあいつを……!!」

「少しは落ち着きなさいよ、シキ」

 切なさを含んだ叫び声に近い彼の声に、ホウカが姿を現して宥める。

「けど……やはり、オレたちも動くべきなのかもしれないな」

「カイ……」

 しかし、そう言ってシキに同調したのは、青い髪の青年……カイだった。
 まさか同調されるとは思っていなかったシキは、驚いた表情を浮かべる。

「……では、行きましょうか」

「ミオ!?」

 突然背後から聞こえた声に、彼らは振り返る。
 穏やかな笑みを浮かべた長い桃色の髪を持つ女性……ミオが、そこに立っていた。
 彼女こそが、彼らを束ねている存在だった。

「ミオ、一体どういう……」

 つもりだ、と続くはずだったギアの言葉は、別の声に遮られる。

「時が来たんだよ」

「僕らが動くべき時」

 ミオの背後から現れた少女……アスカと、その双子の兄……スバルも頷いた。
 アスカは明るい笑顔を浮かべ、スバルは無表情のままだ。

「そーそー。面倒な事はさっさと終わらせようぜ!」

「っていうかまあ、シオンが捕まったのは自業自得だと思うけどね……」

 言葉とは裏腹に、早く助けに行きたい、というような顔で言った少年は、帝泰テイタ
 ため息をつきながら「ニンゲンなんか信用するから」、とぼそりと呟いた少女は、翠波スイハだった。

「テイタ、スイハ……」

「それに、早く助けてあげないと可哀想だしね。彼の方も気になるし」

 ギアは二人を見、その名を呟く。
 テイタたちの背後から、心配そうな声で眼鏡をかけた金髪の少年……雷闇ライヤがそう言った。

「……ミオが動くと言ったんだ。ならばさっさと行き、全てを終わらせよう」

 我らが本来在るべき地に戻るために、と遠くを見つめる赤髪の青年……グラナ。
 どうやら彼を初めとする何人かは、故郷がこの地方ではないようだ。

「……そうね。全てが手遅れにならないうちに……行きましょう、ギア」

 ふわりと笑顔を浮かべて、ホウカはギアへ手を伸ばす。
 見れば、その空間にいる全員がギアを見つめていた。

「……わかった」

 そんな状況では選択肢などないではないか、とため息をついたギアは、渋々ながらも頷くしかできなかった。
 自分たちだって狙われていると言うのに、これでは捕まりに行くようなものではないか……などと内心思いながらも。

(まあ、そう簡単に捕まりはしてやらないが)

「では、行きましょうか。……彼らを倒し、仲間を救うために!」

 ミオの言葉に、全員が頷く。
 それは、戦いの幕開けに過ぎなかった。


 +++


「動き出すのか、君たちも。果たして彼はどちらを選ぶかな……?」

 少し離れた場所で彼らを見ていた白髪の青年は独りごちる。
 それにしても、と長い髪をかき上げ、彼は呟く。

「ジョウトは暑いな……。雪が滅多に降らぬと聞くからどんなものかと思っていたが」

 故郷の雪原を思い出すが、自身には全てを見守る役目があるのだと言い聞かす。
 青年はそっとその場を後にした。



 第11話 終。