ユウたちがウバメの森に入る前日、ワカバタウン。
朝と言うには少し遅い時間、シルバーはまだ眠っていた。
断片的に流れる映像に映る、漆黒に近い青の髪の青年。
桃色の髪の女性、黒い髪の青年。 そして……。
「……ッ!!」
突然シルバーは目を覚ます。
ただの夢、ではないそれは、彼女が生まれつき持っている“守護者”としてのチカラ……『予知能力』だった。
「……動き、出した……奴らが……」
夢で視たその『未来』には、“BATTLE GENERATION'S”と、彼女が“奴ら”と呼ぶ存在たちがいた。
危惧していた未来が、訪れようとしている。
シルバーは自身の腕をそっと掴み、自嘲気味に目を閉じた。
(そんなこと、初めからわかっていたのに)
……と、そのとき。
――コンコン
部屋のドアをノックする音が聞こえ、その方向を見やる。
しばらくして勝手に入ってきた人物……ゴールドは、いつもの笑顔でシルバーに挨拶をした。
「よっ! おはよう、シルバー!」
「……ああ」
相変わらず元気だな、などと思いながら、シルバーは彼に先ほど夢で予知したことを話し出した。
+++
「“BATTLE GENERATION'S”が動き出したあっ!?」
彼女から話を聞いたゴールドは、驚いてそう叫んだ。
彼とてそのうち“BATTLE GENERATION'S”が動き出すとはわかっていた。ただ、彼らの予想よりも行動が早いことに驚いただけで。
「ああ。確実にラツキを手に入れ……私たち“守護者”を亡き者にするためにな。
……それに奴らも、だ」
「奴ら……ああ、うん。そっか、そうだよな。
ラツキが狙われてるのは明白だもんなあ」
“奴ら”……それが誰を指すのかはっきりとは言わなかったが、ゴールドは理解する。
「……うーん、シルバーの予知能力ってほぼ絶対当たるんだよなあ……」
ゴールドが今にも助けに行く、と言わんばかりの表情で思わず呟く。
その呟きが聞こえた彼女は、口元にふっと笑みを浮かべた。
「……だが、“未来は変えられる”。 それは、他ならない私たちがよく知っているはずだ。
だから……私たちも、動くべき時が来た」
「!! それって……!!」
シルバーの言葉に、驚いて顔を上げるゴールド。
「行くぞ。早くユウたちに合流しないとな」
不敵な笑みを浮かべる彼女を見て、ゴールドはきょとんとする。
「なんだ? ……どうせ、ついて来る気なんだろ?」
「……っ当たり前だろ!」
もとより、断られてもついて行く気だったのだ。
本人から直接誘われたゴールドは、久々の旅に上機嫌で準備を始める。
だが、嬉しさの余り普段よりも騒いでシルバーに怒られたというのは、別の話。
+++
この世のどこか、白い空間。
「……祇雅」
「……何だ、星鬼」
何かを決心したようなシキの声に、ギアは彼に向き直る。
「……やはり……オレは、あいつの元へ、行く」
「……この状況下だ。そんなことをミオが許すと思うか?
だいたいどういう心境の変化だ」
切羽詰まった彼の表情を見たギアは、苦々しげにそう返す。
先日は『彼』を混乱させるくらいなら、表舞台にはまだ立たないと言ったはずだったシキに、首を傾げながら。
「……だがっ!! オレの、オレのせいであいつは……。
怖がられてもいい、嫌われてもいい!! 今度こそ、今度こそあいつを……!!」
「少しは落ち着きなさいよ、シキ」
切なさを含んだ叫び声に近い彼の声に、ホウカが姿を現して宥める。
「けど……やはり、オレたちも動くべきなのかもしれないな」
「カイ……」
しかし、そう言ってシキに同調したのは、青い髪の青年……カイだった。
まさか同調されるとは思っていなかったシキは、驚いた表情を浮かべる。
「……では、行きましょうか」
「ミオ!?」
突然背後から聞こえた声に、彼らは振り返る。
穏やかな笑みを浮かべた長い桃色の髪を持つ女性……ミオが、そこに立っていた。
彼女こそが、彼らを束ねている存在だった。
「ミオ、一体どういう……」
つもりだ、と続くはずだったギアの言葉は、別の声に遮られる。
「時が来たんだよ」
「僕らが動くべき時」
ミオの背後から現れた少女……アスカと、その双子の兄……スバルも頷いた。
アスカは明るい笑顔を浮かべ、スバルは無表情のままだ。
「そーそー。面倒な事はさっさと終わらせようぜ!」
「っていうかまあ、シオンが捕まったのは自業自得だと思うけどね……」
言葉とは裏腹に、早く助けに行きたい、というような顔で言った少年は、帝泰。
ため息をつきながら「ニンゲンなんか信用するから」、とぼそりと呟いた少女は、翠波だった。
「テイタ、スイハ……」
「それに、早く助けてあげないと可哀想だしね。彼の方も気になるし」
ギアは二人を見、その名を呟く。
テイタたちの背後から、心配そうな声で眼鏡をかけた金髪の少年……雷闇がそう言った。
「……ミオが動くと言ったんだ。ならばさっさと行き、全てを終わらせよう」
我らが本来在るべき地に戻るために、と遠くを見つめる赤髪の青年……グラナ。
どうやら彼を初めとする何人かは、故郷がこの地方ではないようだ。
「……そうね。全てが手遅れにならないうちに……行きましょう、ギア」
ふわりと笑顔を浮かべて、ホウカはギアへ手を伸ばす。
見れば、その空間にいる全員がギアを見つめていた。
「……わかった」
そんな状況では選択肢などないではないか、とため息をついたギアは、渋々ながらも頷くしかできなかった。
自分たちだって狙われていると言うのに、これでは捕まりに行くようなものではないか……などと内心思いながらも。
(まあ、そう簡単に捕まりはしてやらないが)
「では、行きましょうか。……彼らを倒し、仲間を救うために!」
ミオの言葉に、全員が頷く。
それは、戦いの幕開けに過ぎなかった。
+++
「動き出すのか、君たちも。果たして彼はどちらを選ぶかな……?」
少し離れた場所で彼らを見ていた白髪の青年は独りごちる。
それにしても、と長い髪をかき上げ、彼は呟く。
「ジョウトは暑いな……。雪が滅多に降らぬと聞くからどんなものかと思っていたが」
故郷の雪原を思い出すが、自身には全てを見守る役目があるのだと言い聞かす。
青年はそっとその場を後にした。
第11話 終。
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